パンツの替えも金次第

今年93歳になる義父。結婚以来9年間同居していたのだが、去年から家から車で10分ほどの所にあるケアセンターに入所している。一週間に1,2度は面会に行って、様子をうかがいながら着替えの交換をしたりリハビリの経過報告などを聞いたりしていた。


先日、バイト先に入所先のセンターから電話が入った。朝から熱があるので念のため併設の病院で診察させたい、場合によっては入院もあり得るので準備してくださいとのこと。93歳の高齢だし、いつなにが起こってもおかしくないので普段からそれなりに覚悟してはいたけれど、こういう知らせというのはほんとに心臓に悪いよなあ。


あたふたと身の回り品などを準備して病院に向かったら義父は思いの外元気だった。診察の結果、軽い肺炎とのこと。レントゲンにうつった影もごく小さいものなのでさほど深刻な病状ではないものの、なにしろ高齢である。十分な治療と安静が必要なので、2,3週間程度入院することになった。


ほっと安心して入院の手続きをしようと入退院センターに向かう。


そしたらさー、今は入院ひとつするのもたーいへんなんだから。びっくりしちゃったわよ。


まず、入院保証金として5万円が必要だと言われた。これはカード払いは不可で現金のみ。持ち合わせがなかったので慌ててATMに走って5万円を支払う。さらに連帯保証人として、患者本人と住所を別にする人物の自署・捺印が必要であるとのこと。


我が家の場合、こういう時に連帯保証人を頼める親戚が極端に少ない。沖縄の私の実家なら連帯保証人になってくれるだろうけど、自署・捺印した文書を送付してもらうには2,3日はかかる。
「保証人は沖縄在住なので、この文書を提出するまでに時間かかっちゃいますけどいいですか?.」と言ったら
「できれば茨城県周辺に住んでいる方の方が望ましいです」
なんて言われる。
「今すぐに頼めるような知り合いはいないんですよ。......」
と言ったら、
「それでは、5万円の保証金の他にさらに5万円保証金を上積みして頂ければ、連帯保証人省略の手続きを取ることができますよ」
とのこと。これも現金のみでカード不可。またまたATMに走って5万円をおろして支払う。


今日一日で10万円よ。退院時に戻ってくるとはいえ、ずいぶんな出費である。最近は診療費の踏み倒しや滞納が多くて病院経営を圧迫しているらしいから、最初から高額な保証金を入金させるのもわかるけど、家族の入院というのはただでさえ気が動転するものなのに、いきなり金の心配しなきゃいけないとは、まあずいぶんと世知辛いこと。


それから、ナースセンターからこれからの入院で必要なものをリストアップした紙をもらう。「しばらくはトイレ・入浴が困難になりますので、リハビリパンツが必要になります。病院の売店に売っていますので買ってきてください」と言われた。
「あ、リハビリパンツなら以前買い置きしていたものがたくさんあります。明日、それを持ってきます」と言ったら、ではお願いしますとのこと。


翌日、私が家から持ってきたリハビリパンツを見た看護師さんが、
「あら? これって......」
と顔を曇らせて、ナースセンターでなにやら相談し始めた。
そして申し訳なさそうに、
「すみません、持ってきていただいたリハビリパンツは、うちの病院のものと規格が違うんですよ」と言う。規格? リハビリパンツに規格なんてあるの?
「そうなんです。うちの病院は○○○というメーカーの衛生用品と提携していて、そのメーカーの商品以外は業者が回収してくれないんですよ。ですから、お持ちいただいた商品をお使いになる場合は、使用済みのものは全部ご家族が持ち帰って各自処分していただくという形になってしまうんです」
はあ??? そ、そうなんですか。


「どうされます? 毎日持ち帰ってります?」
と聞かれたけど、私も仕事があるし、毎日決まった時間に病院に寄れるかどうかもわからない。毎回着替えるたびに処分してくれた方がもちろん助かる。仕方がないので病院指定のリハビリパンツを購入することにした。


病院内にある売店で、とりあえず10日分のリハビリパンツを買ったのだけど、これが5000円近くも取られてまたまたびっくり。市販品の1.5倍くらいの値段だ。まあ、この値段の中には回収・処分費用も含まれているのだと思うけど、こんなことにもお金がかかるなんて、ちょっと唖然としてしまった。


私や私の家族はきわめて健康で、長期にわたる入院・介護の経験がないから今までピンと来なかったけど、義父を介護するようになってから、とにかく介護関連・病院関連ってやたら金がかかるなあというのを痛切に感じるようになった。しかも、その負担額が毎年毎年ずっしり重くなってくのを肌で感じる。パンツの回収にまで金がかかるなんて思いも寄らなかったよ。


義父の病院の壁には「○○○費改定のお知らせ」「○○○費の負担額が増えます」などの値上げ告知の貼り紙ばかり。義父が入所しているセンターでも、介護保険料が大幅に値上がりして入所し続けることができなくなり、やむなく自宅療養に切り替えたという人もけっこういたらしい。月額にすると2,3万円もアップするんだもん。死活問題になる人も多いだろう。そのうえ、頼みの綱の国民年金が「ごめんなさいデータが消えちゃったので払えないかも?」なんて言われたらほんと、ふざけんなてめえ!って気になるわよね。


いやはや、地獄の沙汰も金次第というけど、こういう現実を目の当たりにすると、年取ったり病気になったりするのが怖くなるわ。せいぜい倹約して、生活習慣病には気をつけなければ。自分の身は自分で守らなきゃね。ふう。