夕凪の街 桜の国

最初に読んだときは、正直、ピンと来なかった。2度目、3度目と、隅々に配置された伏線に留意しながら読み進めていくうちに、「旭くん」の50年間を思い、泣けて泣けてしょうがなかった。
生き残った者の悲しみと苦しみ。だいぶ前に観た、井上ひさし作の舞台「父を暮らせば」を思い出す。


生き残ってしまって申し訳ない。私だけが幸せになっていいの? 私は生きていてもいいの?


生きていたいのに、幸せになりたいのに、自分がそう思うことに罪悪感を感じる。生き残っても、死んでも、悲しみと苦しみは永遠に続く。生者と死者とのそんな悲しい相克は、残念ながら世界中のあちこちで現在進行形だ。もちろん、この国だって無関係ではない。


「平和」「戦争」「死」「生」「原爆」「ヒロシマ


とかく堅く、観念的な、大文字の言葉で語られがちで、普段、お気楽極楽に暮らしている分、そういう言葉を聞くだけで鬱陶しい気持ちになってくるけど、このマンガを読んだ後には、誰だって自然にそれらのことを考えずにはいられなくなってくる。主人公に共感せずにはいられなくなる。悲しい本だけど、重くない。ぜひ読んでみてください。