心楽しや、英会話

4月から英会話教室の担任が替わった。
前任の先生は、私より5つか6つ年下のyumi先生。朗らかで快活で、普通におすまししている顔でも笑っているみたいな、一緒にいるだけで雰囲気がパッと明るくなるかわいい女の子だった。


教え方もとても上手で、私たちのクラスでは、ひとつの会話ごとにちょっとした寸劇をやらされるのだけど(実は私はこの寸劇がとても苦手)
「荷物が多くて手を貸して欲しい時」のシチュエーションや、「仕事帰りに一杯飲みに誘うとき」、「日本人は人前でキスするのは慣れていないことを説明する」シチュエーションなど、毎回毎回真に迫った名演技で、彼女の熱演ぶりに押されて、私も、
「WAAAAAO」だの「FANTASTIC!」だの「GREAT!」「Oh〜〜〜〜sorry,so,sorry」的なオーバーアクション気味のメリケン・リアクションも交えつつ、それっぽく会話したりしたのだった。


で、そのyumi先生が、4月からキッズ・クラスに配置換えになり(きっとその快活さが買われたんだと思う)、新しく私のクラスの担当になったのがアレックスというアジア系の男性。これがね、心細いことこの上ないんである。


彼、人に物を教えるという経験はあまり多くないんじゃないかと思うけど、yumi先生が迫真の演技で楽しませてくれた寸劇も、彼はほとんど感情移入せずに棒読みだし、なによりバリエーションが少ない。yumi先生は、ひとつのシチュエーションの中で小道具や登場人物を細かく変化させて、いろんなフレーズを引き出してしてくれたけど、彼はテキストブックをリピートするのが精一杯っぽい。

「はい、こちらフロントでございます」
「○○号室ですが、私の部屋のエアーコンディショナーが故障しています」
「それは失礼致しました。すぐに誰か修理に行かせます」
「よろしくお願いします。それから、ここのコーヒーショップは何時に閉店するんですか?」
「24時間営業です」
「オー、それはすばらしい。ありがとう」
「ユアウェルカム、サー」


てな会話を、そう何度もリピートされてもねえ。


けどね。私、実は、この授業が楽しくって仕方ないんである。
顔を真っ赤にしながらテキストブックをリピートし、恥ずかしそうに寸劇(にもなっていないけど)を演じようとする、アレックスのオタオタしている様が、そりゃあもう、かわいくてかわいくて。ちょっともう、もどかしいわね! お姉さんが教えてあ・げ・る♪ てな気分になっちゃうのである。


それというのもこのアレックス、かなりの美少年なんですってば! 目元が涼しげで、髪の毛がさらさらで、姿勢や服の着こなしがとてもキチンとしていて、一見していい家で育てられた躾のいいボンボン、といった感じ。


うっとりするのがその手の美しさ。指がスッと細くて長くて、ツメはキレイに切りそろえられている。そして、彼のうなじがこれまたいいんだよね〜。確か源氏物語の中に若くて未熟な青年のことを「頸ほそし」と表現している箇所があったと思うけど、アレックスの頸やうなじもまだまだ発展途上といった感じで細くて若い。頼りなげではかなげで、実にヨイ。


外国人といえば、こっちが気後れしてしまうほど過剰にフレンドリーでやたら元気、というイメージとかなりかけ離れていて、シャイで控えめなアレックス。


私が文法上間違った単語を使ったり、アクセントやイントネーションがおかしかったりすると、とても真剣な顔でゆっくりゆっくり訂正するんだけど、その訂正の仕方がとてもジェントルマン。彼、日本語がまったく話せないので、意思の疎通がなかなかうまくいかず、軽くパニクったりするその姿もいといじらし。


授業的にはもうメタメタって感じになることが多いアレックス先生だけど、私は英会話はそっちのけでアレックスのもじもじ・おたおたっぷりを見るのがこの上ない楽しみになってしまった。別に彼と仲良くなってどうのこうの、とか、すわ、ヒトヅマとこり、危険なアバンチュール! を狙っているわけでは全然ないんですよ。単に鑑賞するだけでなんとも心楽しいのだ。うーむ、眼福、眼福といった感じ。氷川きよしに血道を上げるおばさまの気持ちがちょっとわかったりして。


夏が近づいてきて女性の服装が軽くなると「いや〜、いい季節になったねえ」とオヤヂの皆様が鼻の下を伸ばしたりするけれど、私がアレックスを見てニヤニヤするのもそんなオヤヂテイストが多分にあるのかもしれない。


若くてかわいい子が近くにいるだけで幸せ♪ という幸福感、自分が若かったら持ち得なかったはずで、そう考えるとちょっとフクザツなんだけさ......