奥薗スマイル

自他共に認めるレシピ本マニアのワタクシ。書棚にはちょっとした図書館には引けを取らないくらいのレシピ本・料理エッセイ本が並んでいる。購入する書籍の7,8割はレシピ本だ。
書店に行っても図書館に行っても、真っ先に向かうのは「実用・料理」のコーナー。女性誌を読んでいても、「夏のコスメ・アクセ特集」などのファッションコーナーは素通りで、「夏ばて防止メニュー」「ひんやりおやつメニュー」などのお料理ページばかり読んでしまう。


それだけ料理の本ばっかり読んでたら、さぞかし幅広いレパートリーがあるのでしょう?さすがねえ......と、あなたは思うかもしれない。ところがぎっちょんちょん。じぇんじぇんそんなことはないのです。もともと私の味覚は超保守的。酢豚に入っているパイナップルがゆるせないクチです。家での食事はほぼ和食。調味料は醤油!みりん!酒!の三本柱。ナンプラーやヌクマム、ココナッツミルクなんて怖くて使えません。最近では「お袋の味」並にニッポンの家庭に浸透している「バルサミコ酢」なんか買ったこともありません。


毎日毎日、切り干し大根の煮物とか焼き魚とか、定食屋みたいな料理しか作らないくせに、どうしてそんなにレシピ本を集めているのか? 要するに、私は、「料理が好き」というより、「レシピ本が好き」なんですよ。本の中で繰り広げられる、「食卓の風景」が好きなんですよね。


美しいテーブルコーディネイト、しゃれた器にカトラリー、品良く盛りつけられた彩り豊かな料理の写真。ページを眺めているだけで、すごく豊かな、幸せな気持ちになれるじゃない? それに、最近の料理研究家の方々は、みなさんキレイでおしゃれで、料理のみならず、そのライフスタイルまで積極的にアピールしているから、レシピ本はそのまま「ライフスタイルカタログ」としても使えるんだよね。ああ、私もこんな優雅な暮らしがした〜い!


そんなレシピ本フェチのワタクシですが、このところ売れているレシピ本で、どーにもこーにもむかっ腹たつ類の本があるんですよ。しかも、かならず同じ著者なんですよ。
これですよ、これ。

お手抜き料理家奥薗壽子のラクしてウマくてもうけもん!―おいしくなる手抜きのツボ大公開! (別冊すてきな奥さん)


著者の名は奥薗壽子。「ナマクラ流ズボラ派家庭料理研究家」と称して、安くて早くておいしい「ズボラ料理」のを提唱している近頃売れっ子の料理研究家らしい。


なにがムカツクって、この人の本には、必ずといっていいほど、著者本人の演技過剰気味なムリムリスマイル写真が表紙に使われているんですよ。その必死の笑顔が勘に障ってしょうがないんです。


まあ、見てよ、このラインナップ。



アナタハナニガソンナニオモシロイデスカ? ナニカクスリデモヤッテルンデスカ? 


といぶかしくなるほどの必死の笑顔。全部歯を見せて笑っているのがすごい。この奥薗スマイルが目に飛び込んでくると、なんだかムカッとしちゃうのよねえ。やたら「ズボラ」「ラク」ってタイトルにつけてるのもなんか腹立つ。そりゃあ私だってズボラだけどさあ、そんなに楽しそうに連呼しなくてもよさそうなもんだ。


いや、節約レシピ、ズボラレシピを否定しているわけではないですよ。私も主婦の端くれですから、手も抜きますし、ラクで安上がりなのに越したことはないです。


けど、レシピ本は、私のささやかなドリームワールドなのです。にかーっと笑って大声で「ズボラ!」「安い!」「早い!」とはしゃがないで欲しい。現実に引き戻さないで欲しい。頼むよ。「ズボラ」や「手抜き」はもっと控えめに、しんみりと営んでほしいのです。


それにくらべて、料理研究家界のアントワネット・藤野真紀子様はやはり違うわ。最初に出したレシピ本がこれですもの。



パリに行って、習ったお菓子


どうよ、この強気のタイトル、アンニュイなポートレイト。料理研究家は、しがない主婦に夢を売るお仕事なのよ。藤野センセイ、やっぱすごいわ。