緊急連絡

その日、オットは仕事仲間のコンサルタント・Aさんとと打ち合わせをしていた。
場所はつくばのオサレショッピングモールの一角にあるタリーズコーヒー


二人で向かい合って座り、オットはビジネス手帳、AさんはノートPCを開き、エスプレッソ片手にビジネストーク。おおっ!なんかかっちょいいではないか。私も混ざりたいぞ。


Aさんというのは、オットよりかなり先輩のコンサルで、大変忙しい方らしい。オットとの打ち合わせの最中にも、ひっきりなしにケータイが鳴り、メールが届き、同時にいくつもの案件を進行させている模様。いかにもエリートビジネスマン風。


オット「......ですからね、ここはこうなってこうしたいわけですよ」
Aさん「なるほど。お話はよくわかりました。こちらとしましてはね......プルルルル(ケータイ着信)......あ、ちょっと失礼。もしもし? あ、ホリエモン? なに、今度はNHK買うから一口乗らないかって? ちょっと考えさせてくれよ、また後でかけ直すから......はい、失礼いたしました」*1
オット「......というわけで、この件に関してもう一つ確認したいことがあるんですが」
Aさん「はい、わかりました。それではですね......ピロロロローン(メール着信音)......ちょっと失礼。このメールだけチェックさせてください」


てな具合。オットはそんなAさんの様子を見ながら、「忙しそうでいいなあ......オレなんか、毎日ケータイ2台も持ち歩いているのに全然鳴らないもんなあ。Aさんの手前、あんまりヒマそうに見えるのもちょっとシャクだよなあ......」と、軽く凹んでいたらしい。


そのとき折良く、プルルルル......とオットのケータイが鳴った。おおっ! グッタイミーン! そうさ、オレだってビジネスマンの端くれだもんな。ケータイくらい鳴るさ。まったく身体がいくつあっても足りないぜ――と着信画面を確認すると、そこには「とこり」の文字。
ナンダヨ(;´д`).


オット「もしもし?」
とこり「あ〜、あのね、帰りにスーパーに寄って、卵買ってきてくれる? 安売りのじゃなくて『筑波の卵』って書いてある、オレンジ色のヤツ」
オット「はいはい」


「お仕事ですか?」と聞いてくるAさん。
「いや、ツマからです。卵買ってこいって言われました」
「ははは。ダンナさんも大変ですね」
「ははは......」


その時またしてもプルルルル......とオットのケータイが! 今度こそ仕事の電話かっ?!


「あ、私。さっき言い忘れたんだけど、パン粉も買ってきてね。ソフトタイプのヤツね。あとオレンジジュース」


その日私は、知らぬ間にオットのビジネスマンとしてのプライドをいたく傷つけてしまったらしい。いやあ、スマソスマソ。でも、ちゃんと卵とパン粉とオレンジジュース買ってきてくれたよ。オット、ありがと。

*1:会話の内容はとこりの想像です