チキンハートランナー(つくばマラソンレポートその2)

普段から大きな声でよくしゃべり、よく笑い、行動も言動もおおざっぱなのでそうとは気づかれないのですが、こう見えて私はかなりのチキンハート。なにか大きなストレスやプレッシャーがかかったりするとたちまち食欲と睡眠が奪われてしまいます。初めての10kmレースの前日も明け方まで一睡も出来なかったし、9月のハーフマラソンの時もそうでした。そして今回のつくばマラソンを控えてからは11月に入ったあたりから「もうすぐ本番だな。体調万全で臨みたいな。しっかり栄養と睡眠とらなきゃよね。とらなきゃ、とらなきゃ......」と必要以上に自らプレッシャーを与えてしまい、本番一週間前くらいから軽い不眠症になっていました。


おまけについでに、どこでもらったのか風邪までひいちまったんですよ。幸い熱は出なかったものの、呼吸困難になるほどの激しい咳が続いて最後の走り込みが全然出来ませんでした。特に起床時と寝付く前の咳込みがひどく、10分くらいげほげほやっているので、オットに「そんなカラダじゃフルマラソンは無理だよ。出ちゃダメ!」ときつく言われる始末。


冗談じゃない!! この日のために私がどんだけ頑張ったのか。貧血を克服してからはひと月の走行距離は150km超(フルマラソンを走ろうとするのにこの距離は短すぎるのだけど、ビギナーの私にはこれが精一杯)、週末には15km〜20kmのLSD。気合い入れてかっちょいいランニングドレスとレース用の5本指靴下、補給食のパワージェル数種、レース用手袋、ウエストポーチにランニング用ぱんてぃまで新調してあるのです。しかも、行く先々、会う人ごとに「今度つくばマラソンでフルマラソンデビューなんですよ〜」と吹聴してまわっているのです(←こんなところだけ太っ腹)。この期に及んで棄権なんてあり得ない。


すがるような気持ちでよたよたするカラダを引きずって、鉄欠乏性貧血になったときもお世話になったクリニックに行きました。すっかり顔なじみになったドクターに「来週つくばマラソンなんだけど、風邪ひいちゃって......どうしてもどーーーーーしても出たいんです。何とかしてください!!」とお願いしたら、「貧血の次は風邪ですか。あんたも大変だねえ」と言いながら抗生物質を注射してくれ、「これはちょっと強めの咳止めだからね。むやみに飲んじゃいけないよ。あ、ドーピングに引っかかるけど、陸連登録選手じゃないよね?」というようなクスリも出してもらいました。


注射と咳止めでなんとか軽いジョギングはできるくらいに体調復帰したのは本番前日。夕方5時に「テキスト庵ランニングチーム」のPAPIさんが我が家に到着されました。日記でよく登場されるユニークな奥様と娘さんも一緒です。今回は家族総出でパパの応援旅行なのだとか。


実は私は、PAPIさんの日記に登場する奥様のエピソードがとても好きで、ヒマになるとログの奥様関連の記事を拾い読んでくすくす笑うのがひそかな趣味(特に「結婚相手が××だったら」というカテゴリーはおもしろいです)。今回はPAPIさんのみならずあの奥様にもお会いできるというのでとても楽しみにしていたのです。初めてお会いするPAPIさんは「恐妻家」「家の中で一番地位が低い」と自嘲気味に書かれているイメージとはだいぶ違って、ゆったりと落ち着いた真面目な紳士。奥様に対しても娘さんに対してもあくまで穏やかで優しい物言いで、ホントにステキなパートナー、ステキなパパといった感じです。奥様は、PAPIさんも日記の中で何度か自慢されているように、すらりと背が高く、ハッと人目をひく華やかな美人でいらっしゃいました。日記の中のイメージではもう少し強気でちゃきちゃきした方かなと想像していたのですが、こちらもおっとりと優しげなたたずまい。お行儀よく快活な娘さんと3人、絵に描いたように幸せそうなファミリーです。


夕食に取り寄せた宅配釜飯が届く頃、ketketさんも合流。我が家のリビングでみんなで釜飯を食べながらゆっくり作戦会議です。ketketさんは、3人の中で走歴が一番長くフルマラソンの経験もある先輩ランナーPAPIさんに「レース中のエネルギー補給のタイミング」とか「ペース配分やストレッチの必要性」などを真剣に聞いていました。私もPAPIさんにレース中の細かいアドバイスを聞きたかったのですが、それよりも本番を前に緊張がぐんぐん高まり、すでに夕飯の段階から食欲が失せているのが気になっていました。いつもなら、卑しいくらいに食べまくるのに今日に限って全然食べられない、食べたくない......。ほんとは普段の倍くらい食べてしっかり栄養取っておかなきゃいけないのに。さらに、しばらく前から続く不安による不眠も心配です。「今夜も寝付けなかったらどうしよう。咳が止まらなかったらどうしよう。明け方高熱が出たりしたらどうしよう。栄養不足でレース中にぶっ倒れたらどうしよう」と「......したらどうしよう」てなことばかり考えてしまって、何をやっても聞いても上の空でした。


夜10時。翌日の本番に備えて「テキスト庵ランニングチーム」は早めに解散。それからお風呂に入ってストレッチして、ウェアとゼッケンの準備をして、忘れ物がないかチェックして床についたものの、案の定寝付けない。うだうだ寝返りうったあげく、とにかく無理矢理にでも寝なきゃ!と睡眠導入剤を飲もうとしたら「風邪薬との併用は厳禁」と書いてあってがっかり。寝なきゃ寝なきゃ寝なきゃ......と思いながら明け方まで悶々として、ようやくうつらうつらしたと思ったら5時にセットした目覚ましが鳴りました。うわーもう朝だよ! 本番だよ! フルマラソンの朝だよ!!


不安と興奮ではち切れそうになりながら、PAPIさん一家も一緒に朝ご飯です。炭水化物をたくさん摂ってエネルギーを貯め込まなくてはなりません。白いご飯をたっぷり炊いて、切り干し大根の煮物とおみそ汁。カステラに牛乳。アミノ酸の顆粒を飲んでバナナを食べて、チョコレートもぼりぼり。とどめにパワージェルも飲みました。例によって食欲はあまりなかったのですが、これもフルマラソンのうちだ!と思って無理に詰め込みました。ここで心配になってきたのはトイレのこと。今回はスタート会場と自宅が近いのでギリギリまで家で用を足すことが出来るのですが、こんなにたくさん詰めんでしまって、走っている最中にあっちのほうをモヨオシたらどうしよう。そうならないためにも家にいる間にさっさと済ませておきたい。早く済ませなきゃ、済ませなきゃ......とプレッシャーをかけていたらチキンハートな私のこと、お腹が変な風にゆるくなってしまいました。ほんとにもー、大丈夫かしら。


8時20分。ketketさん到着。私と、今回は珍しく仕事を休んで応援してくれるというオット、ketketさん、PAPIさんご一家の総勢6人でスタート会場の筑波大学陸上競技場まで歩きます。外に出てびっくり!大学までの一本道を大勢のランナーがぞろぞろ歩いています。さすが参加者13,000人のマンモス大会。つくばマラソンは陸連の公認レースだそうで、記録を狙うシリアスランナーも日本各地から多数参加するのです。早くも本気モードでジョギングしてウォーミングアップしている人もいます。今まで私が参加してきた地方の小さな町のお祭りレースとはわけが違う。みんなマジだ......みんな速そうだ......。早くも心臓バクバクです。こういう雰囲気の中、私ごときのへっぽこランナーが混じっていていいんでしょうか? というか、走り始めてたかだか1年。1km走るのに7分前後というへっぽこランナーがフルマラソンなんて、そもそも無謀だったんじゃないだろうか? あれこれ考えるとまたお腹がきゅるきゅるしてきました。ううう......。バクバクのきゅるきゅるで歩くこと20分。いよいよスタート地点に到着です。


つづく......。まだスタートできません......。