「誰も知らない」「父、帰る」

父、帰る

上京して映画。主演の男の子がカンヌで最優秀男優賞をとったので話題になった「誰も知らない」アンドレイ・ズビャギンツェフという、舌をかみそうな名前のロシア人監督のデビュー作「父、帰る

ねらったわけではないが、どちらも「親に棄てられたこどもたち」の話だった。「父、帰る」の方は終盤、「親を棄てるこどもたち」の話になるが。


「誰も知らない」http://www.daremoshiranai.com/
15年前に起こった「西巣鴨子供置き去り事件」という陰惨な事件をモチーフに作られた映画。立ち直れなくなるくらい暗い映画だったらどうしようと不安だったのだけど、監督の子供たちに対するまなざしが優しさに満ちていて、どうしようもない絶望的な状況を描きながらも、全編にほの明るい光が差す、ファンタジーのような美しい作品に仕上がっていた。監督の優しいまなざしは「加害者」であるはずの大人たちにも向けられていて、直線的な「怒り」とか「告発」めいた「社会派映画」で終わっていないところがすごい。カンヌで賞を取って話題になった柳楽優弥は前評判通りすばらしかったが、しっかりものの長女、ひょうきんな次男、愛くるしい次女、4人の子役ともそれぞれとてもよかった。児童劇団芝居じゃない子役を久々に観たという感じ。とりわけ次女を演じた清水萌々子(すごい字だね)の愛らしさは筆舌に尽くしがたい。これから先アポロチョコを見るたびに、「サクサクあとのせキツネどん兵衛」を食べるたびに、この4人の子供たちのことを思い出すだろう。ゴンチチが担当したという音楽も印象的。



父、帰るhttp://chichi-kaeru.com/
謎だらけの展開、あらゆる箇所に配置されたメタファー、張り巡らされた伏線はなんの答えも提示しないままの衝撃的なラスト(陳腐な言い回しだけど、ほんとうに「衝撃的」としかいいようのない)。なにかを「理解」したい、「納得」したい、と焦れば焦るほど、そのとっかかりが見つからなくてざわざわと不安になってしまう映画だった。不安になったのは私だけじゃないらしく、終映後、観客の大部分が館内にはりだされている作品に関する雑誌・新聞の評論やレビューを食い入るように読んでいた。きっと「理解」や「納得」の手がかりが欲しいんだろうな。私も、思わずパンフレットを買ってしまった。このもやもや、ざわざわをいかんせん。「理解」も「納得」もできなくてもやもや、ざわざわするけれど、「難解」「退屈」じゃないんだな、これが。

数年前に「パパってなに?」http://www.minipara.com/movies2000-3rd/papa/index.shtmlというロシア映画を観たのだけど、共産主義という強大な幻想が崩壊した後のロシアでは今「父の不在」「父親探し」の時期なのかもしれない――なんて知ったかぶりするとたんに、嘘くさくなってしまう。とにかく、こんなに圧倒されたのは久しぶり。最初から最後までスクリーンを「凝視」してしまった。「この映画観たよ!」という人と長々と感想を語り合いたい。超超超おすすめ。見応えは保証します。デート向きじゃないけどね。