ヒロイン・浅倉南

CSの『チャンネルNECO』でアニメ「タッチ」が特集されている。たまたまチャンネルを合わせたら映画「タッチ3 君が通り過ぎたあとに」がちょうど始まるところだったのでなんとなく最後まで見てしまった。

マンガ「タッチ」は私が全巻通して読んだ数少ない作品の一つである。中学生の頃通っていた歯医者の待合室になぜか全巻そろっていて、夢中になってよみふけったもんである。歯医者は死ぬほど嫌いだったけど、待合室に「タッチ」があったから、最後までくじけずに通い続けることができたのである。


で、久しぶりに見た映画版「タッチ」。やっぱりよくできた作品だと思う。勉強もスポーツもルックスもとくに取り柄のないいわゆる「等身大の主人公」が、いつのまにか野球部のエースになり、大活躍をし、弟の遺志を受け継いで甲子園出場を果たし(ちなみに甲子園でも優勝したらしい)、幼なじみのかわいいガールフレンドまで手に入れるという、いわばシンデレラボーイストーリーなのだけど、脇役やサイドストーリーを丁寧に作ってあるので、話の進め方にイヤミがない。主人公たちの優柔不断な感情表現にはイライラさせられるけど、そのじれったさがまた粘着力があるんだよなあ。甲子園を目指して日夜練習に励む色気づいた男子高校生という、この世でもっとも熱く、生臭いイキモノを扱っているのに、不思議と汗や性欲の臭いがない。デオドラント・スポ根。このさらっとした感じがあだち充作品の魅力である。


んがっ!! 今回つくづく思ったんだけど、この作品のヒロイン・浅倉南というのが、まー実にいやーーな女なんである。絶対友達に欲しくないタイプ。


勉強は常にトップクラス、新体操部のエースでありながら、野球部のマネージャーも兼任し、「タッチ」に出演する男子はもれなく彼女に恋してしまうというモテモテっぷり。家に帰れば男やもめのお父さんを手伝って喫茶店の切り盛りをし、主人公のタッちゃんを時には厳しく叱咤し、時には「ご褒美のチュー」をしてあげたりして、ブロークンハートをヒーリングしてやったりもする。ったくもう、完全無欠のスーパーヒロインである。


あーヤダヤダ。なにがムカツクって、この南ちゃんがやたらと男に都合のいい役回りを嬉々として引き受けているところなんである。野球部のマネージャーとして汚れた衣服の世話をしたり、「南特製スタミナ料理」と称しておいちいおいちい「手料理」を振る舞ったり、なんか、高校生っていうより世話女房みたいなんだよね。かわいくて、家事ができて、男にやる気を起こさせてくれる理想の妻。そりゃあ、男にとってはありがたい存在かもしれないけど、三十路も半ば近くになった意地悪オバハンの目から見ると、こんな女うさんくさいったらないわよ。「私って女らしいでしょ。気がきくでしょ」と見せつけられているみたいで鬱陶しいことこの上ない。結婚願望の強いOLとかだったらまだ理解できるけど、浅倉南はまだ高校生だよ? なんでこんなに所帯じみてるの。なんでこんなに媚びるのよ。だいたいあだち充の漫画に出てくる女の子はみんな男の世話を焼きすぎ。「みゆき」でも、中学生のみゆきが高校生の兄ちゃんのために毎日毎日家事をしてた。なんで〜? 分担しろよ、専業主婦じゃないんだからさあ。


しかも、「南の夢は甲子園に行くこと」で、「お願い。南を甲子園に連れて行って」である。なんだよ、ヘンな夢。あんた甲子園行ってどうするんだよ。そんなにかち割り氷食べたいか? 自分で自分の夢を切り拓けばいいじゃんよお。なんでそんなに他力本願なのよお。
さらに自分で自分のことを「南はね......」と言ったりするのもイライラするんだよお――って、ここまでくると単にもてないオバハンの言いがかりなんだけど。


でも、オトコにしてみれば、そーゆーところがまたかわいかったりするんだろうな。「約束する。オレが南を甲子園に連れて行く」ってさ。けっ!
私もオットに頼んでみようかな。「お願い。とこりをソウル・釜山6泊7日の旅に連れて行って(瞳うるうる)。毎日毎日炊事洗濯掃除、頑張るから......励ましのチューもしてあげるから(うるうる)」
......殺されるな、きっと。


あだち充は1951年生まれ。っつーことは今年53歳。団塊の世代である。少年漫画らしからぬデオドラントでライトな作風が新しかったんだけど、根底に流れる女性観はびっくりするくらい古くさいのよね。彼の描く女の子がみんな同じ顔っていうのも彼の硬直した女性への幻想の象徴かもしれない。


まあ、ヒロインの南ちゃんに対してモノ申したいことはいろいろあるけれど、なんだかんだ言っても「タッチ」は名作だと思います。ラストシーン、しっかり泣いたし。てへっ♪