シャチョーサマ
電話がかかってきた。
「はい。もしもし」
「つくばガンバローグループさんですか?」
ここでいう「つくばガンバローグループ」とは、某資格を取得したオットが去年開業した個人事務所(仮名)のことである。事務所といっても名ばかりで、場所は我がマンションの5.5畳のオットの書斎、従業員はオット一人、電話も家と共通、である。
「あ、はい。つくばガンバローグループですが」
「お忙しい中恐れ入ります。私どもは神奈川県Y市に本社を構えます、○○○企画と申します。失礼ですが社長さまとお話ししたいのですがお時間よろしいでしょうか?」
「は? 社長さま? ――って?」
思わず頓狂な声を上げた私に電話の主は
「あの、タロー社長さまです」と言う。
反射的に「ぶはははは」と吹き出してしまった。シャチョー? 誰のこと? うちのタロー? 上から下までユニクロで、移動は全部自転車の、あのタロー? いやあ、曲がりなりにも独立開業して事務所を構えると、あんなのでも「社長さま」と呼んで頂けるんですねえ。ありがたいこってす。そういや、うちのタローはライブドアの堀江社長と同い年だわ。年収は堀江の何万分の一だけどね、わはは。
いやいや、今に見てろよ、そのうちどどーんとひと山当てて、巨人と阪神と中日とNYメッツ、まとめて買収してやる!
電話の用件は「我が社のビジネスアイディアの企画をぜひ買っていただきたく、ご検討して頂きたい。ひいては趣旨のご説明にあがりたいのだが」というなんかようわからん売り込みだった。
あいにくその日はタロー社長は留守だった。ファルージャ総攻撃に抗議するためにアメリカ大使館前に行っていたから。反体制社長である。私も行きたかった。