愛してると言ってくれ

TBSの朝の番組で、ヨン様がらみで日韓の愛情表現の違い、という特集をやっていた。
途中からしか見ていないのだけど、韓国では「やはり男は強くなければ!」という考え方が根強くて、ヨン様演じる冬ソナのミニョンのような優男タイプはどちらかというと異端。「オレが守ってやる! オレについてこい!」というような強引なタイプがモテの主流だという。また、恋愛における愛情表現が非常にストレートで、日常生活においても、「愛してる」とか「好きよ」「おまえしかいない」というような歯の浮くようなセリフもナチュラルに登場するらしい。


「では、ここで日韓における愛情表現の違いを比較してみましょう!」ということで始まった実験がとてもおもしろかった。


街を歩いている40〜50代のおばさまに頼んで、職場で仕事中のご主人にケータイで電話をかけ、「ねえ、あなた。愛してるわ。それだけ言いたかったの」と伝えるのだ。さあ、ご主人の返答は? 
私なんか、この企画の内容を聞いただけで、うわー、それキツイ、あり得ねー! と胸がドキドキしてきたのだが、ご主人の返答のタイプが日韓ではっきりとわかれていておもしろかった。

韓国の場合

<パターン1>
妻「あなた、愛してるわ」
夫「なんだ? いきなり?」
妻「愛してるって言ってるでしょ!」
夫「(苦笑しながら)ああ、オレも愛してるよ。へんなヤツだな」<パターン2>
妻「あなた、愛してるわ」
夫「ん? 何言ってるんだ?」
妻「ただ、愛してるって言いたくて電話したのよ。愛してるわ、愛してるわ」
夫「ああ、オレもだよ」
妻「どのくらい愛してる?」
夫「すごく愛してるよ。神様の次におまえを愛してる」
妻「ホントに?」
夫「ホントさ。愛愛愛愛してるよ」(サランヘ、サランヘ、サランヘヨ)

......書き写すこっちが赤面してしまいますな。念を押しておくけど、この会話、新婚早々の熱々カップルの話じゃないんである。40〜50代の熟年夫婦の会話。


一方、日本の場合はどうかというと......

日本の場合

<パターン1>
妻「もしもし、私ですけど。あなた、愛してるわ」
夫「ハア? 何言ってんの?」
妻「愛してるって言ってるのよ」
夫「バカ! 今仕事中で周りに人がいるんだよ! 切るぞ!」(ガチャン)<パターン2>
妻「あなた、愛してるわ」
夫「は? もしもし、どちら様ですか?」(間違い電話だと思っている)
妻「私よ。愛してるって言いたかったの」
夫「なんでそんなことでいちいち電話してくるんだよ。バカじぇねえの?」<パターン3>
妻「あなた、愛してるわ」
夫「お前、おかしいんじゃないのか? なんだよいきなり」
妻(狼狽しつつ)「今ね、テレビの取材受けてるのよ。愛してるって言わなきゃダメみたい」
夫「『愛してる』って言えばいいのか?」
妻「そうそう」
夫「はいはい、愛してる。じゃな、切るぞ」


まあ、予想はしていたけど、「愛してるわ」と電話で言っただけで、愛の言葉を返すどころか「何言ってるんだよ!!」とマジ切れする夫多数。奥さんも「いま、テレビの取材を受けていて......」と状況説明を始めてしまう始末。仕事中であろうが、周りに人がいようが、きちんと「俺も愛してるよ」と返してくれる韓国の殿方たちとはエライ違いだった。私は、この実験に協力したニッポンの奥さんはすごいなあと感心したけど。私は絶対できない。


たとえば、今回と同じような実験をうちのオットで試してみたらどうなるか?......と考えてみたけど、オットの場合、ま、何にも言わずにガチャンと切るな。それで、家に帰ってすんげえ怒られる。間違いない。ここを読んでいる女性の皆さん、ご自分のパートナーに同じ実験をして「まあ、うちのダンナは『ああ、オレも愛してるわ』ときちんと返してくれるわ」と自信をもって言い切れます?


最近の男は軟弱になったと言われて久しいけど、ニッポンでは(ていうか、私はニッポンの男しか知らないし、そのニッポンの男ともそんなにたくさんつきあったわけじゃないから、エラソーに分析はできないけどさ)、やはり「男子たるモノ、愛だの恋だのちゃらちゃらしたことを言うもんじゃない」というサムライ精神が身に付いているのだろう。サムライ・ニッポンの言い分では
「そんなこと、いちいち言わなくてもわかってるだろ? どうしてわざわざ口に出して言わなきいけないんだよ? 今さら?」*1
てなところだろう。
 

「言わなくてもわかる」。それはそう。ごもっとも。今さら愛だの恋だのいちいちベタベタと言い合うのはこっちだって照れくさい。そういうラブラブの時期はつきあい始めのほんの短期間で十分。今はお互いを信頼して、一緒に暮らしているわけだから、いちいち確認するまでもないことなのかもしれない。


でもな、「言わなくてもわかる」かもしれないけど、言ってくれればうれしいのよ。少ない言葉と淡泊な態度の端々から、「この人は私のことを大切に思ってくれてるんだろうな」と「気づかせる」「察してあげる」のも奥ゆかしい愛情表現かもしれないけど、きちんと口に出していってくれるとやっぱり華やいだ気持ちになるのさ。うれしいのよ。多少のムカツクことも「愛してる」のヒトコトで「ま、いいか」とゆるせてしまう。


あんまり言葉を安売りしすぎる男は信用できないけど、甘い言葉のひとつやふたつ振りまいたところで、夫婦生活においてはなーんの害もないわけだから、たまにはきちんと口に出して「愛してる」と言ってくれよ、世のお父さんたち。奥様は「何言ってるのよ! バカじゃないの?」って怒ったりしないと思うよ。いいじゃん、言うだけならタダなんだし。


......てなことをツマから言われて、「おおそうか、それなら言ってやろうか。愛してる、愛してる」とか言われてもビミョーにムカツクけどね。

追記

オットに「やっぱり、いきなり職場に電話してきて『愛してるわ』なんて言われたらびっくりするよね。職場っつーのが悪いのよ。職場以外ならOK?」と訊いたら、「職場でなくても、そんなこと電話で言われるのは気持ち悪いじゃないか」と言われました。

*1:しかも「職場」で。実験の場所が「職場」っていうのが最大のネックだな、やはり。しかし、韓国の殿方は、それもいい年したおっちゃんが、職場で平気で奥さんに「愛愛愛してるよ」って言っちゃうんだよ。それはすごくびっくりした