ケータイレス・ドラマ

CSで「男女7人秋物語http://d.hatena.ne.jp/ean/4988131700050の一挙放送があったので、全話録画した。このドラマは私の生涯でもっともハマったドラマである。1987年、高校2年生だった私は、リアルタイムでこのドラマを見ながら毎週ビデオ録画し、ドラマの放映期間中、何度も何度も、それこそテープがすり切れるほど見た。そのときの録画テープは、ずいぶん後になるまで大切にとっていて(大学入学で沖縄から上京してきたときにも後生大事に持ってきた)折にふれては再生して、胸キュン(死語)していたものだ。


このドラマに出てくる川崎駅周辺のおしゃれなカフェやバーや、登場人物たちが住んでいる瀟洒なマンションの描写は、沖縄の片田舎で暗くてダサくて地味な青春を送っていた私の純朴なハートに強烈な印象を残し、長い間、理想のライフスタイル、理想の恋愛の象徴になっていた。なにがなんでも東京の大学に行って、手塚理美みたいに「ワンレン」の髪にして、「ボディコン」の服を着て、今井良介(ドラマの中でさんまが演じていた主人公)みたいな彼を作って、「男女7人」がいつも飲みに行く川崎の*1シックなショットバーでお酒を飲む、そんなトレンディなアーバンライフとラブをエンジョイするのだ!と、固く胸に誓ったものだった。妄想気質は今とまったく変わっていないね。


今回、10年ぶりくらいに通してみたのだが、ほとんどのシーン、ほとんどのセリフをそらで言えてしまう自分に驚いた。どの回もむっちゃ好きだけど、特に第8回の「妊娠」が最高。ラストシーンで良介が桃子を思わず抱きしめる所なんか、10回くらいリプレイしてしまった。リアルタイムで見ていたときは、この回のあと、「いったい二人はこのあとどーなるのっ???」と気になって気になって、しばらく勉強が手に着かなかったおぼえがある。このドラマに入れ込んでいた時間を受験勉強に充てていれば、浪人せずに済んだかもしれない......いや、これはマジで。


まあ、17年も経つとさすがにアラが見えたりもする。
登場人物たちが会うシーンはいくらなんでも偶然に依拠しすぎだろうとか、いわゆる「トレンディドラマ」のハシリの作品で、当時は「かっくい〜〜〜」と思っていた登場人物の衣装は、モロ「タイアップの衣装〜〜〜!!」って感じだし、室内インテリアとか、化粧とか、頑張っています! 「オシャレ」してます! って気負いがびんびん伝わってきてちょっと苦笑。


まあ、そんな細かいアラよりも、今見ていて痛烈に感じたのが、「ケータイのない恋愛」への違和感だった。ドラマを見ている間中、「うううう、ここでケータイがあればこのトラブルは回避されたのに」「ここでケータイ使えば、誤解はなくて済んだのに」「ここでケータイがあれば二人はもっと早く結ばれたのに」と思うことしきり。会いたくても会えない、連絡が取れない、というときに、登場人物たちは公衆電話や仕事先への伝言、あるいは直接家に行ったり(行くよ〜と事前連絡がない)してその場をしのぐのだけど、連絡のタイムラグや取り違いなどで、様々な感情のすれ違いがある。そこがドラマの醍醐味でもあるんだけど、ケータイ生活にどっぷりつかった現在から見ると、じれったいことこの上ない。


テレビドラマ、主に恋愛ドラマの描かれ方って「ケータイ以前」と「ケータイ以後」でずいぶん大きく変わったはずだ。私がオットとつきあい始めた当初(1994年頃)はケータイなんかなくて(使っている人はいたけどまだまだ少数だった)、当時全盛だったポケベル(!)で「愛のメッセージ」を交換しあったりしたものだけど、そのときはケータイがなくても、なーんにも困ることはなかったし、ケータイナシでも私たちの愛(笑)は十分育まれたのだ。けど、小学生の頃からケータイを持ち歩いているような現代の10代、20代の若者にはケータイなしの生活、ケータイなしの恋愛など考えられないだろうし、「ケータイ以前」の恋愛ドラマを見ると私たちの世代以上に激しい違和感を持つだろうなと思う。



ポケットからささっとケータイを取り出して、いつでもどこでも周りを気にせず電話できる。「今どこにいるの?」といつでも確認できる。ベルが鳴って話し始める前に相手の名前が液晶に表示される。電話のベルが鳴り、受話器を取って、相手の声を聞いて初めて、愛しい人だと確認できるまでのあの緊張感。電話がない場所で、なかなか連絡が取れずに泣いたり、怒ったり。「電話するヒマがなかったんだよ」「電話したけど、通じなかった」といういいわけも、ケータイが流通してからはあまり通用しなくなった。


「好き」「会いたい」「いまどこにいるの?」「私のこと、どう思っているの?」「愛している」など、恋する気持ちの本質は古今東西変わらないだろうと思うけど、その思いを伝えるツールとしてケータイがある時代に恋愛するのとケータイがない時代に恋愛するのとでは恋愛に向き合う姿勢というか、気合いの入れ方、思いを伝える「熱の高さ」みたいなものがやっぱりちょっと違うんじゃないかな。ケータイのない時代の恋愛の方が純度が高かった、とか、情緒があったとか、そんな浅薄なことを言いたい訳じゃないけど、でも、なんとなくそんな気がする。


まあ、いずれにせよ、恋愛に夢中になっている最中は自分の思いを最大限に相手に伝えようとして手持ちのツールをフル稼働させるのはケータイ以前も以後も同じ。私も、オットとつきあっていた頃にポケベルでやりとりしていた暗号めいた数字の羅列の「愛のメッセージ」(笑)今でもよく覚えている。あのころケータイがあったら、私たちの恋愛はどうなっていただろうか。


――てなことを、紆余曲折を繰り返し、ようやく結ばれた桃子と良介のドラマを見ていて思ったのでした。このドラマがきっかけでさんまとしのぶは結婚したんだよね。私はさんまもしのぶもそんなに好きじゃないけどこのドラマにハマッていた時期は、二人のキャラとドラマのキャラが完全にシンクロしていたので、結婚したときはホントにうれしかった。離婚したときはずいぶんがっかりしたなあ。
まあ、離婚後もたまに一緒にテレビに出たり、さんまがしのぶや子供たちのことをさかんにネタにしていたり、いい関係は続いているみたいで「男女7人」ファンとしてはうれしいかぎりである。二人の間に出来た女の子(いまるちゃん)がもう高校生だって。いや〜〜、隔世の感とはこのことか。

*1:上京してきて初めて川崎に行ったとき、ドラマとはずいぶん印象の違う雑然とした川崎駅周辺のたたずまいにずいぶんがっかりさせられたけど