バブルのクリスマス
もうすぐクリスマス。玄関にリースを飾って、ベランダに電飾を光らせて、ケンタッキーフライドチキンと冷凍作り置きケーキを食べて、家族や恋人からなんかもらう日である。うわ、ひねくれてんな、私。
クリスチャンじゃないけど、優しい気持ちになれるからクリスマスが好き――てなことを槇原敬之が歌っていたような気がするけど、年を経るに従って、どんどん冷めてきている私。優しい気持ちになるどころか、街中いたるところでクリスマスソングが鳴り響いてうるさい、くらいの感懐しかもてなくなった。これでも若い頃は（今でも若いけど！！）、クリスマスにはなんかいいことありそうな気がしてそれなりに楽しみにしていたんだけどな。
クリスマスにはなぜ心が弾むのか？ 大きな要素は二つ。
（1）ラブラブな彼or彼女と、公然といちゃいちゃしてても許される日だから
（2）そして、ラブラブな彼or彼女から愛情とお金がかかったプレゼントをもらえるから
「性欲」と「物欲」ががっちりタッグをくんだ大イベント。恋する男女が浮かれるのも無理はない。つか、なにが「聖夜」だよ。むちゃくちゃ煩悩まみれじゃん！
彼氏も友達も、お金もなかった、暗い暗ーーーい私の青春時代。折しも時はバブル。クリスマスなんて言ったら、そりゃあ、今なんか比較にならないくらい世間は浮かれていた。それだけに自分の寂しい境遇が身にしみて、クリスマスへの憧れは年々強まるばかりだった。けど、実際、彼氏が出来て、彼氏と結婚して、「愛する人と一緒に過ごす聖夜」的なシチュエーションが整っても、いざ、クリスマスとなると「なんでわざわざ」という徒労感ばかりが先に立つんですよ。
クリスマスシーズンのレストランなんてどこもかしこも混んでるわ、高いわ、待たされるわでいいことナシ。わざわざ行くのはアホくさい。クリスマスケーキは大量生産の冷凍モノ、プレゼントにしたって、欲しいモノはクリスマスを待つまでもなく自分で買っちゃうし、「びっくりさせようと思って」というシークレットプレゼントはツボを外すことが多いのでお互いしないことにしているし、だいたい、何を買っても出所は同じお財布なんだもん、お得感が全然ないわ。遊びに行くにしても、ドライブもカラオケも映画も*1これまた混み混みクラブ。ホテルに泊まる？？ なんでよ？？ 師走のクソ忙しいときにわざわざ高い料金取られて？ だいたいホテルに泊まって何するのよ？ ホテルですることなんて家でもできるでしょうが！ 家ならタダでしょうが！（あらま、お下品♪） あれほど憧れていた「二人で過ごすクリスマス」なのにね。
でも、私の若い頃（今でも若いけどっ！！）は、バブルの頃は、クリスマスっていったら盆も正月も吹っ飛ぶ勢いの、一年中でもっとも熱いイベントだったのだ。日本中の若い男女に、「クリスマスを一人で過ごすのは絶対にイヤ！」という強大な強迫観念が蔓延していた。なにがなんでもクリスマスまでに彼氏を作って（その後ポイしてもかまわない）、青山あたりでフランス料理のフルコースを食べて、夜のお台場をドライブして、夜景のキレイなスポットでティファニーのオープンハートのネックレス*2をもらって、赤プリのスイートルームに泊まって、ドンペリ開けて、それから、それからあとはムフフ......てのがバブル当時のカップルの典型的なクリスマスの過ごし方だったのである。そのコースをたどれない者＝負け犬、という見えない圧力があったね。男性誌も女性誌もクリスマスが近づくとこぞって「彼or彼女をメロメロにするクリスマスの過ごし方」「クリスマスまでに彼（彼女）を見つけるには」みたいな特集を組んでたなあ*3。当時放送されていた吉田栄作*4と仙道敦子主演の「クリスマス・イブ」というドラマは、クリスマス・イブを恋人と過ごす、ということに異様にこだわっている女の子の葛藤を描いたお話だった。
そんな狂乱の日々も今は昔。いまどきクリスマスくらいであんなに大騒ぎする人はさすがにいないでしょう。なんだったんだろうね、あの騒ぎは。あの頃、マニュアル通りに都心の高めのレストランでコース料理食べて、ティファニーのオープンハートもらって、赤プリ泊まって「聖夜」を過ごしたバブルのカップルたちは今頃どうしているんでしょ？ 体脂肪率高めの二児の母や、ビール腹を気にするおっちゃんになっているんだろうなあ。そしてクリスマスが来るたびに、「あの頃はほんとに浮かれてたよね。バカだったよね。バブルだったよね......」と遠い狂乱の日々を懐かしく思い返しているのかもしれない。
てなことを考えてたら、なんとなくしんみりとしてきました。バブル、そんな時代もあったよねえ。
あの頃、張り切って、頑張って「クリスマスしてた」恋人たちが、今も変わらず豊かで幸せでありますように............と、心にもないことを言ったりして。だって私はバブルでいい思いしたことなんてありませんでしたから！ 残念！
