歯ぎしりミッドナイト

昨夜、食事を終え、風呂も済ませ、ネット徘徊も一段落、さあそろそろ寝ましょうかね、とAV機器の電源を落とそうとして、HDDレコーダーの上にTUTAYAの袋が置いてあるのに気づいた。あ、先週借りたビデオだ。そういや、そろそろ期限じゃなかったかな......と貸し出しレシートを見てみると「返却日1月10日」となっている。


「うわー、うっかりしてたよ、期日オーバーじゃん!」
と思わず声を上げると、風呂場で服を脱ごうとしていたオットが
「なに? なに? 何が期日オーバーって??」と聞きとがめた。


や、やべえ、オットに聞かれた......


「ほら、こないだ借りたビデオの返却日って昨日だったんだ。あはは〜うっかりしてた〜」
と、つとめて明るく、軽く答えたつもりだったけど、オットに与えた衝撃は生半可なものではなかったらしい。
「あのビデオ、まだ返してなかったの? なんで? 昨日もおとといもTUTAYAの前通ったじゃん! どうしてその時返さないんだよ!? もう〜! ドンドンドン(と地団駄)」
「いや、なんとなーく、木曜日あたりかなあって気がしてたんだよね。そうか、火曜日だったか。これは意表をつかれた」
「意表をつかれたじゃないでしょ! どうしてメモっとかないんだよ? で、何本借りたの?」
「3本」
「3本〜?? 3本分延滞料金取られるの? うわー、もったいない! 3本分の延滞料金払うんだったら新品のDVD買えるじゃない! もう、ムダ、すっごいムダ、信じられない!! ドンドンドン(と地団駄)」
「でもこのビデオ新作じゃないから延滞料金もちょっとは安いはずだよ。大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないでしょ、全然! ちょっと今何時?」
「12時半」
TUTAYAの日付変更線は確か朝9時だったよな。ちょっと今から返しに行ってくるわ」
「いいよ、私が朝イチで行ってくるから」
「ちょっとでも早いほうがいいだろ! 明日の朝、寝過ごしでもしたら延滞料金2日分だよ? 今から行ってくるよ」
「わかった、わかった、私が悪いんだから今から私が返してくるから。あなたはお風呂にでも浸かってちょっと落ち着いて」


超・超几帳面で背後霊に巨大な「もったいないおばけ」を背負っているオットにとってみれば、うっかりミスによるレンタル延滞料の支払いなんつーのは、それこそムダと怠惰の極地、大変な屈辱なのだ。オットにバレたのはまずかった。延滞料金発生事件は私がこっそり処理して闇から闇へ葬り去るべきだったのだ。「取り返しのつかないムダ」をしてしまった、という衝撃でオットの顔色は見る見る青ざめていき、100メートル先からでもはっきりわかるほど意気消沈している。


彼の衝撃を少しでも和らげるために、即刻速攻大至急で返しにいかなければっ!
と、罪の意識にさいなまれた私は、氷点下の真夜中、風呂上がりの髪が乾ききっていないにもかかわらず着の身着のままで車に飛び乗り、TUTAYAに直行した。


旧作ビデオの延滞料金は思ったより安く、1本200円。3本で600円だった。翌朝9時過ぎだったらこれが1200円になったわけで、まあ、被害はなんとか最小限に食い止められたと言っていいだろう。


家に帰ると、風呂上がりのオットはさらに落ち込んでしょんぼりしていた。当事者である私を怒鳴りつけたりしないのは助かるけど、こうあからさまに落ち込まれるとよけい罪悪感......。そんなに落ち込まなくてもいいじゃんねえ? 被害額は600円だったわけだし。
「金額の問題じゃないんだよ! この600円、まっっったく払う必要のない金なんだよ? 600円、みすみすドブに捨てたのと同じなんだよ。あああ、もったいないもったいない、病気になりそうだ......」


その晩、オットは悔しさのあまりなかなか寝付けなかったそうです。私は爆睡したけど。いやー、スマソスマソ。あんた、もうちっと気持ちを大きく持たないと長生きしないよ?  


......と、こんながさつなツマをもったことが彼の寿命を縮めている最大の原因か。まあ、いいや、こないだ生命保険更新したばかりだし(笑)