青春の傲岸と焦燥

イ・ジョンジェの映画デビュー作「若い男」(1994)を観てきた。実は、内容にはさほど期待していなかったのだ。若くてぴちぴちのジョンジェが拝めればそれでいい、と思っていたのだが、これがどうしてなかなか歯ごたえのある力作だった。


私は「情事」というメロドラマ映画を観てイ・ジョンジェにハマったのだが、このデビュー作での彼の演技を観ると、彼が単にグッド・ルッキングのアイドル俳優の枠を逸脱した存在だったことがわかる。うーむ、なかなかの役者だ。もし、私がイ・ジョンジェという俳優を全然知らないまま、この作品を観ても、やっぱり「うーむ、いい俳優だ。前途有望!」と思うに違いない。


若さの傲岸、ひりひりと焼け付くような成功への野望と焦燥、好色でいながら時に冷酷、狡猾さと繊細さ。どうしようもなく薄っぺらでナルシスト、利己的で計算高い、ロクでもないヤツなんだが、どんなにひどいことをされても、どんなに振り回されても、それでも後を追わずにはいられない、好きにならずにはいられないような、キラキラした魅力を振りまく不思議な存在。その年齢の人間しか持ち得ない背反する感情を実に巧みに、自然に表現している。撮影時、ジョンジェは21歳。この作品で韓国内の各映画新人賞を総なめにしたという。納得。


彼に実力があったのも確かだろうけど、彼の魅力を最大に引き出す演出・脚本を用意したペ・チャンホ監督の力も大きい。監督がイ・ジョンジェという俳優の魅力をいち早く、深く理解していたことがわかる。彼は制作者側にとても愛されたのだろう。ラッキーな俳優である。制作者の「いい映画を撮りたい」という情熱をかき立てるきっかけになるような力がジョンジェにはあるんだろうな。


......って、ちょっとホメすぎかなあ。でも、ほんとによかったんだよ、これ。若さゆえの暴走と悲劇、いかにも低予算で作られた映画っぽく、大がかりな仕掛けや豪華なキャストもないのだけれど、「太陽がいっぱい」的なほろ苦さが残る青春映画の逸品だと思う。今回は期間限定の特別上映だったけど、DVD出ないかなあ。


余談だけど、作品中、ジョンジェ演じる主人公が酔って親友と殴り合いの大げんかをするシーンがある。激しい悪罵の応酬の後、ジョンジェが「もうお前なんかとは絶交だ!二度と俺の前に現れるな!」と啖呵を切ると、相手が「もちろんそうするさ! どっちみち来週には入隊だ!」と言い返し、そこで一瞬、二人の動きが止まる、という箇所がある。韓国映画で青春を描くときには「入隊」は欠くことのできない重要なファクターなんだなあ......と、改めて感じさせられた。入隊によって切断される青春の痛み――。これは、逆立ちしたって私たちにはわからない。