「よっこらしょ」を乗り越えて

だしポット

こちらhttp://d.hatena.ne.jp/tokori/20050125#p1でも書いた野崎洋光のだしポット。さて、その使い心地は? 以下、使用感レポート。


そもそもだしポットとはなんぞや?

だしポットは「分とく山」総料理長、野崎洋光氏が誰にでも失敗なくおいしいだしがとれるように、と考案しただしポットです。
昆布やかつお節のおいしいのだしを取る一番のポイントは温度管理。80℃〜90℃に保つのが素材のうまみを引き出すポイントとのことです。ところが、一般的には沸騰したお湯で煮出すケースがよく見られ、これではせっかくの素材のうまみを無くしてしまいます。

「だしポット」は磁器独特の熱の伝導性に注目し開発した商品で、厚手の磁器を採用することにより、沸騰したお湯を注ぐとすばやく放熱し(沸騰したお湯をポットに入れる段階で温度はだしを抽出できる温度に変化します)、なおかつその後しばらくは80℃〜90℃に保てるのが特徴です。これにより面倒な温度管理の必要がなく、失敗なくおいしいだしが取れるのです。

使い方はとてもシンプル。見ればわかるように、このポット、その名の通りちょっと大きめの急須の形をしている。この中に非常に目の細かいストレーナーが入っていて、その中に昆布と鰹節を適量入れ、沸騰したお湯をどぼどぼ注いで待つこと1分。うま味と香りがちょうど良いタイミングで引き出された本格的なだし汁がとれるのだ。一回にとれる量は約500cc。おみそ汁なら4人分。


ご家庭のキッチン担当の諸氏、お料理のレシピに「だし汁50cc」って書いてあったらどうします? わざわざお湯を沸かして鰹節を入れて、網じゃくしですくって、濾して――という、王道の方法でだし取ります? きちんと鰹節でとっただしの方が美味しいのはわかっているんだけど、面倒なのよね〜と心の中で言い訳しながら顆粒や液体のインスタントだしに頼ってしまいませんか? インスタントでも十分美味しいし、なんといっても手軽なので時間のない時はホントに便利。最近のインスタントだしのクオリティはずいぶん向上している。「割合で覚える和の基本」ISBN:4140331712 の中で著者の村田吉弘氏もこう書いている。

家庭では、煮物一品のためにわざわざだしを取るのは面倒でしょう。だしが面倒だから煮物は作らない、というのでは意味がないですから、時間がなければインスタントだしをつかってもよろしい。私はそう思います。


しかーし、たまに気合い入れてお煮しめやお吸い物作ったりするときに、ちゃんと鰹節でだしを取ってお料理すると、インスタントとはまるで違う出来になることは、悔しいけれど認めざるを得ない。なんといっても、あの独特の香り。そして舌に残らないまろやかさ。これぞニッポンの味。わんだほー! 前述の村田氏もこう続けている。

インスタントだしを使ってもよろしい。私はそう思います。思うけれどもやっぱり、できればきちんとだしを取ってほしい。煮物のできあがりが全然違ってくるんですよ。とんがった味、舌に残る味のない、すっきりしたおいしさです。


鰹節や昆布でとる「本物だし」と違って、インスタントだしには「だし成分」だけではなく、けっこうな量の塩分も入っているのだとか。うーんとだしを利かせたコクのある味が好きなのよね〜と、インスタントだしをたくさん使うと、必然的に塩分オーバーになってしまうんだって。そろそろ生活習慣病が心配になりだした我々にとってはこちらの方も少々気がかり。


本格だしなら、塩分の取りすぎの心配もないし、味も香りも格段にあがるのはわかっているけど、なにせめんどくさい。自分でだしを取るための作業を列挙してみると
1.鍋にお湯を沸かす
2.沸騰したら削り節を投入
3.一瞬煮立たせて、火を止め、鰹節が沈むのをじっと待つ
4,鰹節が沈んだら、網じゃくしですくい取る(このとき決して鰹節をぎゅっと絞らないように。味に雑味が出るらしい)。
5.とれただし汁をペーパータオルなどで濾す(これは省略する人も多いだろう)。


人それぞれやり方はあると思うけど、だいたいこんなとこだろう。美味しいだしを取るためには、ぐらぐら煮立てすぎないことが肝心なので、作業中は鍋から目を離せない。ちょっと目を離した隙に煮立てすぎて妙なえぐみが出てしまったという失敗もままある。そのうえ、作業終了後は
1.鍋 
2.網じゃくし
3.だしのかすを取るための皿 
4.だしをもう一度濾す場合はボウル
と、洗い物が増える。場所も取る。だしはお料理の基本とは言うけれど、洗い物は増えるわ、気は抜けないわ、場所ふさぎだわで、ズボラな私にとってだしとり作業はどうしても「よっこらしょ」という感じになってしまう。


ところが、このだしポットだと、沸騰したお湯とタイマーだけ用意しておけば、あとはお茶を煎れる感覚でだしがとれる。「沸騰したお湯を入れて1分」というシンプルなルールなので、目を光らせてだしを引き出すタイミングを見極めなくてもよい。余っただしをわざわざ別の容器に移さなくてもポットの中のストレーナーを外せば、ポットがそのままピッチャーになるので、二人分のおみそ汁に半分使って残りの半分は青菜のおひたしに使いましょう、という場合でも直接ポットからどぼどぼ注げる。


最初このポットを見たときは、何の変哲もない急須みたいなものに8000円もするのか。ちょっと高いわよね。たかがだしを取るためだけなのに8000円......。とかなり迷ったのだが、使ってみると決して高い買い物ではなかった。だしを取ろう!という「よっこらしょ」感がぐーんと軽減されたのだ。沸騰したお湯さえあれば、1分だもん。


だしポットの説明書には、標準のだしを取るためには「鰹節5g、だし昆布4cm×4cm」とある。この分量でだしを取ると、昆布と鰹がほどよくブレンドされた、とても品の良いだし汁がとれる。ただし、私には少々品がよすぎて薄味に感じてしまう。私はアジクーター*1が好きなので、鰹節の量を料理によって加減している。だしを利かせたい煮物に使うときは昆布は使わずに鰹節を多めに入れる、だし汁をそのまま使うお吸い物やみそ汁の場合はレシピ通り鰹節5gと昆布でだしを取る。この分量でとるだしは、お吸い物やお雑煮、お茶漬けなど、だしをそのままスープとして味わう料理に向いていると思う。


だしポット、迷っていたけど、買ってよかった。これは当たり。うちは和食党なので、だしを使う料理がけっこうな頻度で登場する。一回500ccじゃ足りなくなることもあり、一日に2,3回はせっせとだしを取っている。こんなに使えるポットだとわかっていたら、一回に1リットルのだしが取れる特大サイズにしておけばよかったと早くも後悔。


というわけで、野崎洋光のだしポット、かなりオススメです。和食を作るのが楽しくなります。デザインも美しいのでキッチンに置きっぱなしにしても目障りじゃないです。


写真はある日の夕食。
だしポットを使って作った青のりのお吸い物、「割合で覚える和の基本」を参考にした豚の生姜焼き、水菜と春雨の中華サラダ、という献立。磯の香りが漂う青のりのお吸い物、我ながらとても美味しかった。お吸い物が上手にできると、料理上手になったようで気分がいい。

*1:沖縄の方言。濃くてこってりした味