サクセス合羽橋

トリッパの温かいサラダ

春一番が吹き荒れる水曜日。この日は、何日も前から楽しみにしていた食欲魔人さんとのランチデートの日だった。


せりあさんがHPを作成している南青山のCozimaというイタリアンレストラン。和の食材を使ったちょっと変わったイタリアンを食べさせてくれる店で、ここのシェフのお任せコースというがむちゃくちゃオススメだという。デートの日取りが決まった日から、私は日になんどもこの店のサイトでメニューをチェックして、心のよだれをふきふき、何が出るかな、何が出るかな、んもうドキが胸胸! と当日を待ちわびていたのである。


しかし、あろうことか、週末に予定外の風邪を引き込んでしまい、何年ぶりかで38度の発熱。げげっ、このままだと水曜日のランチデートがオシャカになっちゃうじゃん、まずいじゃん、何が何でもこの日は行かねば! 這ってでも行くわ! と、週末は一歩も外に出ずにひたすら静養して、気合いで体温を平熱に戻し、水曜日には見事回復。万全のコンディションでテーブルに着くことができたのだった。食い意地の一念、熱をも下げる。


お楽しみのランチコース。詳しいレポートはせりあさんが書いているとおり。私はただひたすら
「うわ〜きれい!」「おおっ、この歯ごたえがなんとも」「この野菜の火の通し加減が絶妙!」「これは絶対家ではできない」「たとえ作ったとしてもうちのオットなら二口で終わる」「いやいや、鶏肉と豚肉の区別もつかないオットにはもったいない料理だ」
などとしょうもない感想をつぶやきつつ、ウマー、ウマーと口を動かしていただけだった。


ホワイトアスパラやタケノコやこごみなど、あるかなきかの苦みと感じられる薫り高い春野菜をふんだんに使った料理の数々はどれもこれもほんとうに美味しかった。感激したのが、トリッパ(牛の胃袋)のサラダ! 臓物料理特有の臭みを完璧に振り落とした、トリッパのソテー。固すぎず柔らかすぎず、何とも言えない歯ごたえを残した不思議な食感のあの一皿は、今までに経験したことのない味覚だった。ギャルソンにちらっと訊いたら、ワインビネガーを丸ごと一本使って3回ゆでこぼして下処理したという。気の遠くなるような手間と時間がかかったお料理だ。私もそこそこ料理好きだとうぬぼれていたけど、さすがに太刀打ちできない。プロの仕事だ。家庭では絶対にマネできません。これぞ外食の醍醐味! 


つくばにもたくさんおいしいお店はあるけれど、「なにをどうやったらこんなに美味しいお料理ができるんですか????」と、一皿一皿にサプライズがある料理を出す、スペシャル感のあるお店は、まだないように思う。やはりそこは東京の懐の深さである。はるばる常磐線に揺られてきた甲斐があったというもの。いやいやごちそうさまでした。堪能させて頂きました。


満足満足、とゲップをかみ殺しつつ、地下鉄に揺られて合羽橋へ。合羽橋、ああ合羽橋合羽橋。ここは私の天国である。どんなオシャレなブティックやアクセサリーショップより、鍋やらお玉やら香辛料やらが所狭しと並んでいるこの合羽橋問屋街の方が遙かに魅力を感じる。なんなら3日くらいここで野宿したい。


世界バリバリバリュー」なんかに出てくるお金持ちのお嬢が、「これが誕生日にパパにもらったバーキンで〜、これがグッチで〜、これがブルガリで〜」と、自慢たれる様を見ても、「はあ〜豚に真珠とはこのことかね」以外に特に深い感懐も持たないのだけど、合羽橋に来ると「うおおお、金持ちになりてえ!」と、痛烈に思う。特に今日みたいに、10本で3200円のバニラビーンズの袋売りを、「やっぱり高いわ、贅沢だわ......」と諦めてしまった時には、「今に見ていろボクだって、もっともっとお金持ちになって、合羽橋で思う存分鍋とか釜とか計量カップとかを金に糸目をつけずに買いまくってやるからな! バニラビーンズの10本や20本、ひょいと買える身分になってやるからな! あとシナモンスティックも! カルピスバターだってダースで買っちゃうからな! 覚えてろよ!」と、訳のわからない闘志をメラメラと燃やして、よしっ、明日からバイトがんばるぞ!と鼻息が荒くなるのである。バニラビーンズのまとめ買い、それが私の成功の証。


結局その日はバニラビーンズは買わず、粉ゼラチンを500gの大箱で買った。
「ゼラチン、こんなにたくさん買ってどうしましょ。何を固めよう?」とつぶやく私に
「意志を固めましょう」とつっこむせりあさん。
ははは。そりゃ名案だ。英語を勉強する!とかダイエットする!という意志をこのゼラチンで固めましょう。モノがゼラチンだけにすぐにふやけちゃうけどね〜。


ゼラチンの他に、甜麺醤の大瓶、OXOのメジャーカップ、アルミのプリン型、ギャルソンエプロン、などなどをあちこちの店をはしごしながらちまちま買っていく。炒飯やチキンライスをパコっと型押しするご飯型を探したり、使い勝手のいいパスタ皿をあれこれ見繕ったり......ああ、こういうちょっとした小物を、女の子(?)どうし、あーだこーだ言いながら買い物するってほんとに楽しいわよねえ。男連れだと、気を遣っちゃってこうはいかない。合羽橋で野宿するんなら料理好きの友人と「2人で」野宿、に訂正。


合羽橋散策の後、上野で軽く......でもないか、食パン一斤使ったハニートーストでお茶したあと(さすがに1/4も食べられなかったけど)、せりあさんと別れて、家に帰ったら、留守番していたオットが風邪を発症、のどが痛い〜頭が痛い〜体がだるい〜と唸っていた。


家族を置き去りにして1人でさんざん豪遊しまくった後なので、さすがに罪悪感を感じて、おお、よしよし、かわいそうに、お茶入れようか? 肩もんであげようか? 生姜湯作ろうか? と猫なで声を出したら、オットは
「ねえ、今日、とこりたちが食べたランチ、いくらだった?」
と聞いてくる。
「な、なによ。そりゃあ、ちょっとおハイソなお値段だったけどさ、あの内容の割にはあの場所の割にはかなりリーズナブルだったのよ。でもでもでも、私のバイト代で払ったんだからね! 何にも問題ないからね! いいじゃん、年に何度もある事じゃないんだし、たまには美味しいモン食べても!(逆ギレ気味)」
「いやいや、別に責めてるわけじゃないんだよ。楽しくてよかったね――ちなみに今日のボクのお昼は、昨日の朝の残りのヤマザキの食パン2枚だったからね。価格にして、えーっと、30円ってとこかな。栄養足りなくって風邪ひいちゃったよ、ごほごほ......」
と、言われましたとさ。ちゃんちゃん。