ないものがあるけど、欲しいものはない

与那国島の海

「楽園」「リゾート」「心優しき人々」「ゆっくり流れる時間」などなど、うっとりワードで語られることの多い沖縄の離島だけど、「ステキなところねえ」「いいわねえ」だけでは済まされない部分も当然あるわけで。


与那国島でびっくりしたのが、その物価の高さ。島で一番大きなスーパー(と言っても雑貨屋に毛が生えた程度のもの)に買い物に行ったら、ほとんどのモノが定価or定価以上で売られていた。インスタントラーメンが一袋100円以上するんだもんな。ボックスティッシュは一箱200円。ジョイフル本田なら、200円あればティッシュは4個買える。肉や魚の加工品はさらに高く、なんてことはない冷凍ハンバーグが400円とか漬け物が一袋300円とか、とにかくすべてにおいて割高。しかも品薄。ブロッコリーもズッキーニもパプリカもない。ベルギーワッフルもクロワッサンも桜餅もおはぎもない。生クリームも無塩バターもバニラエッセンスもなんにもない。カスタードがたっぷりつまったシュークリームが食べたくても売っていないし、作ることも出来ない。餃子を作ろうとしても挽肉がない。オシャレな下着や洋服を売っている場所もない。那覇から500㎞、東京からは2000㎞以上離れている最果ての島、需要もそんなにないだろうし、輸送費でどうしてもコスト高になってしまうのは仕方がない。もちろん、豊富な海の幸、畑で取れる野菜などである程度自給は出来るだろうけど、それでも物質文明にどっぷり浸った私から見ると、よくもまあこんなところで暮らしていけるなあと嘆息してしまう。聞けば与那国島の物価の高さは日本一だそうだ。


島の若者に「ネット環境はどうなっているの?」と聞いたら、「2,3年前からようやくISDNになったよ。いままでずーっとダイアルアップだったから、一時期ネット代で月5万円くらいかかっていたなあ」と言う。「本とかCDはどうしてるの?」「前は本島に注文して船便で届けてもらっていたけど今はネットで買うね」「Amazonだと送料無料だしね」「いやいや、与那国島あたりになると送料無料サービスの適用外地域になってしまうんだよ。CD一枚、本一冊だったら送料の方が高くつくね。だからまとめ買いか、友達と共同購入さ〜」「そういえば、さっきスーパーに行ったけど、日用品の値段が高くてびっくりしちゃったよ」「だからほとんどの買い物は生協で済ませるね。生協なら価格は一定だし」「なるほど! 生協ね」「だけど生協が島までやってくるようになったのも最近なんだけどね」


島を散歩すると、至るところに馬や牛が放牧されている。夜、車を走らせると、夜行性のヤシガニやカメががさごそと道を横断しているところにぶつかる。島のどこにいても海鳴りが聞こえる。日本一日の出が遅い最西端の島の朝は、鶏の鳴き声で始まる。夜は満点の星空。「東京から来たの? カジキ持ってきたから食べなさいね〜」と次から次へと差し入れをしてくれる親戚。 
 
都会では味わえない自然や人情が確かにこの島にはあるけれど、しかし、島人が欲しがっているのにないものがあまりにも多すぎる。わずかな期間滞在するだけの旅人には計り知れない苦労や不満があるだろう。


ほんの数年前まで、島で放映されているのはNHKと台湾放送(!)だけだったそうだが、ケーブルテレビの普及によって、かなりのチャンネルが見られるようになった。宿泊先で見たフジテレビ系チャンネルのの情報バラエティ番組では「絶品! 代官山のスイーツ特集!」なんてのを放送していた。


シュークリームもショートケーキも売っていない島で見る「代官山」の「スイーツ」たち。島の女の子はこういう番組を見て、那覇や東京に憧れ、動きの遅いネットにイライラしながらいろんな都会の情報を入手するんだろう。


「代官山のスイーツ特集」を作っているスタッフは、与那国島にもこの番組を見る人がいるって、ほんの少しでも想像してるだろうか。