えらいぞ! 店長!

以前、友人の家でホームパーティーをしたときに、食前酒として出されたスパークリングワインがとてもおいしかった。


私は酒の種類や味に関しての知識がほとんどなく、とくにワインに関しては赤・白・甘口・辛口だけが選択基準というお子ちゃまである。レストランに行けばそれなりにかっちょつけてワインを頼んだりもするけど、ほんとは赤玉ポートワインが一番ウマイ♪と思っている。


しかし、この時出されたワインは、甘過ぎもせず辛すぎもせず、ヘンな酸味も渋みもなく、口当たりがよくて非常にフルーティ。酒は大して強くない私だけど、こりゃあうめえや! とばかりにあっという間にボトル一本飲んでしまった。


「これ、なんていうワイン? どこで買ったの?」と訊くと、「ほら、あそこ、ショッピングモールの中にある、あの酒屋で。安もんだよ、1000円もしなかったもん。でもけっこうおいしいよね、これ」


私にしては珍しいことだが、そのワインの名前と売っている場所をチェックし、同じものを買って心ゆくまでガブ飲みしてやる〜と固く心に誓ったのだった。


で、先週のこと。買い物のついでにその酒屋に寄り、首尾よくくだんのワインをゲットした。確かに安い。なんと570円! 洋なしのイラストが描かれたラベルもとてもかわいい。飲み干したあとは、このビン、インテリア用に飾っておこう。


ほくほく顔で持ち帰り、冷蔵庫にしまって3日目。「おいしいスパークリングワインがあるんだ。うちでパスタでも食べながらプチ酒盛りしようよ」と友人を招き、ワクワクしながらコルクを抜いた。


スコッ!


あれ? スパークリングワイン特有のシュポッ!という、あの威勢のいい音がしない。ヘンだな? グラスに注いでもシュワシュワいわない。イヤーな予感がして、一口飲んでみると、ものの見事に炭酸が抜けていた。うすら甘い酢みたいなヘンな味。なんだよ、これ〜〜。


ワインに合わせてカルパッチョやパスタやサラダなど、精一杯オシャレな食卓をアレンジし、おいしいワインと料理、弾む会話、楽しい午後のひととき〜♪を華麗に演出しようとしていた私のもくろみは見事外れ、炭酸の抜けたワインとともに一気に脱力してしまった。「しょうがないよね、570円のワインなんて所詮こんなもんよ」「ラテン系の人間が作るものはやっぱり信用できないわ!」「やっぱり赤玉ポートワイン、最強!」とぶーぶー文句垂れながらも、結局一本空けて、不完全燃焼のまま、その日の午餐は終わったのだった。


昨日のこと。
お菓子作りに使うリキュールを買いに、その酒屋に入った。あのスパークリングワインのことを思い出してクレームつけてやろうかと思ったけど、安物のワインだったし、結局全部飲み干したわけだし、レシートもないしな。ま、いっか、とも思ったが、やはりヒトコト言っておいた方が今後のためによかろう――と、思い直し、その場にいた店員に
「あのう、こないだここで買った○○○というスパークリングワイン、家に帰って飲んだら炭酸が抜けててすっごく不味くなってましたよ〜。友人と一緒に飲もうと思って楽しみにしていたのでショックでした〜。結局全部飲んじゃいましたけど、いちおうご報告まで」
と、つとめて軽い調子で伝えた。すると店員は「少々、お待ちください。ただいま上の者を呼んでまいります」と言う。あ、イヤ、別にそんなオオゴトにしなくていいですから! とあわてて止めたけど、その店員は奥に引っ込み、すぐに神妙な面持ちをした店長が出てきた。


「大変失礼致しました。お買いあげいただいたワインに何か問題が?」
「いや〜、そんな高いものじゃなかったし、結局全部飲んじゃったわけだから、別にいいんですよ。ただちょっと炭酸が抜けてただけで」
「ほんとうに申し訳ありませんでした。今までにそのような問題はなかったのですが......できれば、そのワインの空き瓶とコルクはお手元にございますか?」
「ええ、家にまだあります」
「それでは、ワタクシ、その瓶を回収しに参ります」
「あ、いやいや、そこまでして頂かなくてけっこうです。私、家がすぐ近くだから、こんど通りかかった時に持ってきますよ」
「いやいや、とんでもない! こちらから取りに伺います! これは当社の信用問題に関わることですから。未開栓のワインの炭酸が抜けるなどということはあってはならないことです。空き瓶があれば、なにか原因がわかるかもしれません。これから本社と輸入元に問い合わせて、原因がわかり次第、ご連絡差し上げますので」


真面目な顔で深々と頭を下げる店長。まいったなあ、そんなに深刻になられてもなあ......と当惑しながらも、とりあえず、住所と連絡先を教え、店長の名刺を受け取ったのだった。ちなみに、ワインの代金はその場で返金してもらった。


そして、その日の夕方、その店長、ホントに家にやってきたのである。


「このたびは本当に申し訳ありませんでした。輸入元に問い合わせたところ、コルクに何らかの欠陥があって、そこからガスが抜けたのではないかとのことです。ごくごくまれにそのようなコトがあるらしいです。あるいは当店の保存状態に不備があったのかもしれませんが。とにかくこれから空き瓶を持ち帰って原因を調べます。ご迷惑をおかけいたしました」
「そんなあ〜、わざわざご足労いただいて、こっちこそ、なんかスミマセン......」
「いえいえ、こちらこそすみませんでした。(と二人で米つきバッタのように頭を下げあうことしばし)これ、お詫びの品でございます。試飲用なのですが、よろしければお召し上がりください」


店長はなんどもなんども頭を下げて、缶ビールを1ケース置いていった。恐縮することしきりである。なんか、ここまでされると、私が不当に彼をいじめているような気さえしてきたのだった。


結局、その日、この店では、570円のワインを買った客のために、店長じきじきに謝罪し、返金し、わざわざ重たい缶ビールケースを担いで、我が家までやってきて、空き瓶を回収し、原因究明を約束したのだった。


いやあ、私は感服しましたね。普通、ここまでやるか? あるいは、この店にはクレーム処理のマニュアルがあって、店長はこのマニュアル通りに行動しただけかもしれない。しかし、私の話を聞いている時や、謝るときの彼の態度は、本当に誠意そのもの、といった感じで、「めんどくせえな」「うるせえな」と思っている様子はみじんも感じられなかった。値段の多寡に関わらず、客の1人1人をきちんと丁重に扱っているという意識が十分見て取れた。私もサービス業の端くれにいるが、この時の彼の態度はほんとうに素晴らしかった。パーフェクト。見た感じ、私とタメか年下、といった感じの若い店長だったが、きっとこれからもいい仕事をすることだろう。感動したぞ私は! これから酒類は出来るだけこの店で買おう! 


というわけで、みなさん、つくば周辺でお酒を買おうと思ったらぜひぜひ「やまや つくば店」で!信頼できるスタッフがきちんと仕事している、いい店ですよ〜