医薬品として認定

3回目の歯医者。
歯石除去が終わり、今回から虫歯の治療です。前歯に1本、左右の奥歯に1本ずつ、計3本の虫歯ができていて、1ヶ月かけてこれらをやっつける作戦。まずは前歯から。虫歯の進行具合はごく軽いらしく、「30分くらいで終わりますよ〜。ちょっと削って薬詰めるだけですから」と言われました。2回続いた歯石除去で歯医者への耐性がかなりできている私、楽勝楽勝と椅子に座りました。


「痛かったり気分が悪くなったりしたらすぐ言ってくださいね」と優しく前置きするドクターソフト(物腰がソフトなのでこう命名)。「だいじょぶです」と余裕で答える私。しかし、ドクターソフトの右手に握られた鋭利なドリルに目がロックオン。あ、あれで私の前歯ちゃんをギリギリ削るんですか? いやん、そんなの入れられたら壊れちゃう......と一瞬にして血の気が引きました。


ドクターソフト、ドリルのスイッチを入れます。「きゅいーーーーん」と唸るドリル。


いやああああああ!!だめだめだめええええ!!


音を聴いた私は何もされないうちからパニック状態。
「はい、お口あけてください」
わなわなと口を開ける私。
「ぎゅいいいいいいいいいいいん」と唸りながら口に前歯に接近してくるドリル。


NO〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!


思わず「うううっ」と大声を上げ足を激しくバタバタさせてしまいます。


ドクターソフトはびっくりして手を止めました。
「痛かったですか?(まだ何もしてないのに?)」
「いや、まだ痛くはないけど、音がめっちゃ怖いんです」
「音? 音はねーこればっかりはしょうがないんですよ」
「そうですよね。すみません、お手数かけて。続けてください」
「はい、じゃあ行きますよ〜」


再び唸るドリル。ああ、やめてやめてやめて。怖いよう。でも我慢するんだ、とこりはもうおっきいんだもんな。さんじゅうごさいだもの。弱虫なんかじゃないやい。
と必死に耐えていたのですが、ドリルが前歯を削り始めたとたん
「ぎゅいいいいいいいいいいいん」が「ゴリゴリゴリッ」と鈍い摩擦音に変化。前歯全体に響き渡る強烈な違和感。


NO〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!


と再び足をバタつかせて治療中断。


「痛かったですか?」
「いや、痛くはないんですけど......怖いです(涙目)」
「そうですか......麻酔しときましょうか? 麻酔しておけばとりあえず治療中の痛みや違和感はなくなりますよ。痛みがないという安心感でずいぶん落ち着きますし」
「でもでもでも麻酔って注射ですよね? 注射いやん、注射嫌い」
「大丈夫ですよ。最初に歯茎の表面に麻酔薬を塗りつけて注射するので注射の痛みは全然ないです」


あの手この手で私の恐怖と苦痛を和らげてくれようとするドクターソフト。というか、私があまりにもビビリンで大騒ぎするのでちっとも治療が進まず、手を焼いていたのかもしれません。


そこで急遽歯茎に麻酔をかけられ(恐れていたほどではなかったがでもやっぱり痛かった)、感覚が麻痺してきて上唇全体がビローンと垂れ下がってきました。ピンセットで前歯をコツコツ叩かれてもなんにも感じません。これなら大丈夫、と治療再開です。


再び唸るドリル。
「ぎゅいいいいいいいいいいいん」「ゴリゴリゴリッ」
あああっ、今私何されてるのっ? あんなにすごおい音を立てる機械が、私のかわいいかわいいおちょぼ口に入って好き放題暴れ回って......


「ぎゅいいいいいいいいいいいん」「ゴリゴリゴリッ」
あああっ、感覚の遠くの方ですごい勢いで前歯を圧迫されているのを感じるわ。あのドリルが私のかわいいかわいいおちょぼ口ブイブイ言わせてるのよ。あああ恐怖で気が遠くなるう。


痛みこそ感じなかったものの、とにかくこの不気味な機械音だけで私のデリケートな神経はズタボロです。全身冷や汗でびっしょり。白髪三千丈。シンから疲労困憊しました。30分のはずの治療が想定外の麻酔が入ったためにたっぷり一時間。たかがC2程度の治療でこの有様。ドクターソフトもお疲れ様でした。


治療後、「痛みよりも音が堪えますねえ。ほんと、イヤな音ですよ。身の毛がよだちます」と感想を述べると、
「最近の機械はずいぶん進歩しましたけど音だけはどうしようもないんですよね。次回いらっしゃるときは、なにかヘッドフォンステレオみたいなものを持参してくるといいかもしれません」
とドクターソフト。
(きらりーんと光る私の目)「ヘッドフォンステレオ? iPodとか?」
「そうですね。ヘッドフォンを耳につっこんでおいて好きな音楽を大音量でかけていればイヤな機械音もだいぶ忘れられるでしょう」


なんということでしょう(ビフォー・アフター風に)! 
すっかり縁が切れていたと思っていたiPodがここへきて再び登場です。まさか歯医者の治療の必需品だったとは!私とiPodの間にはなにかしら運命的な絆があるに違いありません。


ル・クルーゼの鍋も買ったばかりだし、少々お財布を引き締めなければ、これ以上モノは増やさないもん!と決意した私ですが、iPodは歯医者さんが「必要だ」とおっしゃっているのです。これはもはや医薬品。決して決して私の個人的な物欲ではないのです。


次回の治療は来週の金曜日。iPodなしで耐えられるでしょうか? いや耐えられまい。私の虫歯完治のためにぜひiPod。歯医者も認める医薬品。これはもう買うしかないのかも。