ナイチンゲール妻の祈り

日曜日以来、オットの尿管に鎮座ましましているにっくき結石。
この2日間はなんの変化もなかったので、「よかったよかった、もうおしっこと一緒に流れちゃったんだ」と安心していたのですが、今朝になって再び猛威をふるいだしました。
こないだ救急車で運ばれたときと同じような激痛に襲われたオットが、「お願い、助けて......」と私を揺り起こしたのです。


見れば、こないだと同じように顔面蒼白で冷や汗をびっしょりかきながら唸っているオット。しかし、原因は尿管結石だとわかっているので、今回はさほどあわてません。ったくよー、なんでこの結石は早朝限定で暴れ出すんだあ? どうせ痛くなるんなら昨日の午後なんか思いっきりヒマだったのにー。私、昨夜寝付いたの2時過ぎで眠いんだけど?――なんてことはまったく思わない私。とにかくオットが不憫で不憫でなりません。
「大丈夫? お水飲む? お薬は?」
と優しく声をかけるナイチンゲール妻。
「いまの......痛み......波が引いたら......薬のませてくれる?......」
と弱々しく頼むオット。えー、せっかくイイ感じで布団がぬくぬくなのに〜。眠いし寒いしタルいなあ。薬も飲めないほど痛いんだふーん、ほんとかなあ――などとは、まったく思っていない私は、かいがいしく白湯を作り、薬を準備してオットに飲ませます。そして
「大丈夫、大丈夫、お薬が効いてきたらすぐラクになるからね。もう少し頑張ってね」
とメンタルケアも怠りないナイチンゲール妻。さあ、薬が効くまで私がずっとそばにいてあげるからね――


ふと気づくと
「とこり、だめだ、痛い......」
とオットに揺り起こされている私。あら、私ついうとうとしちゃったのかしら? 処方された薬はまったく効かず、痛みはどんどん激しくなっている模様。とうとう辛抱たまらんオットは再び病院に行くことになりました。
「どうする?また救急車呼ぶ?」
「いや......駐車場までは行けるから、とこり運転してくれる?」


え〜マジかよ〜、これから病院まで行くのお? どれくらい待たされるんだろう? それに私、朝ご飯食べてないんだけどなあ。洗濯も掃除もしたいし。あ、そういえば今日は11時から友達とランチの約束じゃん! いやーん、キャンセルしたくないなあ。11時までに終わるかなあ? 自分で車運転して行ってくれないかなあ? 結石って車も運転できないほど痛いの? ほんとにい?......などとはみじんも思っていない私は、もちろんさっさと支度しましたよ。ああ、オット、かわいそう。痛いでしょう苦しいでしょう。あなたの気持ちはよくわかるわ。苦しいときに支え合ってこそのフーフですもの。人という字は互いが互いを支え合ってできているのよ。さあ、眠りなさい、疲れきった体を投げ出して 熱いそのまぶたを唇でそっとふさぎましょう〜♪ と岩崎宏美の昔のヒット曲を口ずさみながら、オットを搬送する私。


病院の待合室に入ると、朝一番だというのにすでに黒山の人だかり。受付で渡された整理券には19番と書いてありました。うへ〜これから19番目かよ! しかもここ、泌尿器科だし! なんかオヤジばっかりだし! 週刊新潮とプレジデントしか置いてないし! くっそー、家からなにか文庫本持ってくるんだったなあ。てゆーか、19番目って11時までに終わるかしら? ランチデートに間に合うかしら? んもう、いざとなったらオットにはタクシーで帰ってもらって私一人だけ先に帰っちゃおうかしら?――てなことはもちろんこれっぽっちも思っていない私は、隣の席で青い顔をして痛みをこらえているオットが不憫で不憫でならず、悲しみにうちひしがれながら、天の神様に助けを求めました。


神様、神様、私のオットがピンチです。尿管に石ができて痛いんですって。とっても苦しいんですって。おしっこの出も悪いんですって。どうにもこうにも我慢できないんですって。かわいそうなのでなるべく早く治してあげてください。病院の順番が早く回るようにしてください。できれば10時半頃までにお会計がすむようにしてください。11時には家に帰れるようにしてください。それから今後オットの結石の発作は、朝じゃない方がいいです。だって朝早いと眠いし寒いし......じゃなかった、病院が開いてなくて困るので、できれば水曜日の午後3時頃あたりに集中させてくれると助かります。その時間帯ならジムもないし、私はたいてい家にいますから。


そんな必死の祈りが天に通じたのか、ほどなくオットの順番になりました。すぐに痛み止めの注射を打ってもらって痛みはようやく治まったのでした。処方箋をもらって会計を済ませてソッコーで家に帰り着いたのは11時ちょい過ぎ。よかったあ、ランチをキャンセルしなくてすんで......じゃなかった、オットの痛みがなくなって。


その後予定どおり友人と落ち合ってご近所のオッサレーなフレンチの店で小粋なランチをいただいた私ですが、尿管につまった結石のため、一日中腹痛と残尿感に悩まされているオットが不憫で不憫で、前菜とメインとデザートくらいしかのどを通らず、パンのお代わりも2回しかできませんでした。


オットをこんなに苦しめるにっくき結石!!! 早く出てこい! 出てきたらデジカメで撮って晒してやるからな!


ということで、現在、我が家のトイレには茶こしが常備されています。この茶こしで石げっちゅ。