ヤンキーボクサーの人生設計

スポーツ観戦にはほとんど興味のない私ですら、沖縄が生んだ世界チャンピオン・カンムリワシこと具志堅用高のタイトル戦以来、ほぼ30年ぶりにボクシングの試合を通して見たくらいだから、亀田のタイトル戦はやはりすごい注目度だったんでしょうね。視聴率が40%超えたって? W杯並の人気なんだなあ。たいした人気だ。びっくらこいた。


ところが一夜明けると「あの判定変!」「汚いぞTBS」「日本人として恥ずかしい」等々、大ブーイングの嵐。仕掛人のTBSの元には抗議の電話やメールが殺到したという。うん、あれは誰が見てもうさんくさい判定だった。番組構成もあざとすぎた。同じパチンコ屋のCMを何十回見ただろう。


しかしなあ......。興毅くん、まだ19歳だよ。ボクシング以外にこれといって取り柄のない、純粋温室栽培の世間知らずのヤンキー小僧。そんなたった一人の若造のために、いったいどれほどの人間と金が動いたんだろうか。試合の何日も前から、コンビニで亀田弁当は売り出されるわ、特番組まれるわ、テレビも雑誌も「いよいよ!」「ついに!」「さあどうなるか!」とさんざん煽りまくっていた。勝つにしろ負けるにしろ、この若造の一挙手一投足を商品にして一儲けしようと舌なめずりしていた。あの重圧、19歳の彼にはちょっと酷じゃないか? フツーだったら自分のあずかり知らないところでどんどんどんどんふくらんでくるメディアの巨大なうねりにビビリまくってとても平常心ではいられないはず。


内心相当ナーバスになっているはずなのに、メディアは相変わらずの傲岸不遜なヤンキーキャラを待ち望んでいるのを彼は十分わかっているから、ことさらいきがってふてぶてしく振る舞うしかない。あの状況、きついだろうなあ。まあ、もともとあんまり頭がよくないからおだてられると調子に乗っちゃんたんだろうけど。


「疑惑の判定」から一夜明けて、今日は朝から各局のワイドショーに生出演していた彼。どの番組でも「あの判定はスッキリしませんでしたよね?」と婉曲に批判されていて、それでも「言いたいやつは言ったらええやん」と相変わらずのビッグマウスだったけど、死にものぐるいで戦った後、四方八方からバッシングだもん、泣きたい気分だろうよ。潔く負けていた方がどれほど気が楽だったことか。さらにあと2,3日もしたら今度は意地悪な週刊誌がここぞとばかりに亀田一家をバッシングするだろう。試合のことも、試合に関係ないこともあれこれ書きかき立ててくるだろう。そう、勝っても負けても骨の髄まで吸いつくされるんだ。


今はまだ注目度高いからいいけど、食べ頃期間はすぐ過ぎ去る。ここまでのし上がって来るにはそうとう敵も作ってきただろう。商品価値がなくなった彼のその後の人生を考えると、哀れになってくる。19歳の若者一人にあれだけの重圧と責任を押しつけて、いびつなチャンピオンに仕立て上げた関係各所、その後の彼の人生までしっかりフォローしてやれよ。あの子はもう一般社会では生きていけないんだから。