春巻き進化論

新しいバイト先で勤めはじめて一ヶ月余。
ようやく全体の流れがつかめてきたかなあという程度には慣れてきたつもりですが、それでもちょっと忙しくなるとパニクってミスを連発するのは相変わらず。


目下の私の懸案事項は春巻き。今月に入って新しいメニューとして「シーフード春巻き」が登場したのですが、この春巻きに悪戦苦闘。レシピを見たときは、春巻きなんて具材をくるくるキャラメル包みにすればいいんでしょー、小学生でもできるわん〜♪ と思っていたのですが、店のメニューとしてお客様に出してお代をいただくからには、それなりの規格というものがあるわけで。


まず、

  1. 春巻きの具材はきっちり計量
  2. なおかつ具材の水気をきっちり切る
  3. なおかつ春巻きの皮を巻くときは、空気を巻き込まないようにはじっこのすみずみにまできっちり具材がつまっているように巻く
  4. なおかつ長さはきっちり12㎝
  5. なおかつ太さはきれいな円筒状になるように


などなど、家で作るのに比べるといろいろ「きっちり」していないといけないのです。
しかも、朝の忙しい仕込みの時間にちゃっちゃと巻き巻きしなければならず、あわててやって雑な仕上がりになってもまずいし、いつまでも春巻きばかりにかかりっきりになっていてもまずい。


で、「手早くきれいに確実に」春巻きを作るのが私の任務なのですが、案の定宍戸錠、ぶきっちょさんな私は、すみずみにまで具がきっちりつまった、長さ12㎝きっかりの美しい円筒状の春巻きを巻くことができないのです。春巻きの皮を何枚も何枚も無駄にしながら悪戦苦闘しているとおっかない先輩バイトに「ちょっと、いつまでも何やってるの!」と言われ、あわあわと慌てて巻き巻きすると、「全然大きさそろってないじゃん!やり直し!」「もうちょっと見た目考えて作ってくれない?雑すぎ」等々、怒濤のようにダメ出しされて、焦るやら悔しいやらで体中から汗が噴き出します。


まあ、忙しい厨房ですから、多少威勢のいい言葉が飛び交うのは覚悟していますが、私はこう見えてもスモールハートでチキンハート。怒気を含んだ声音で強く何か言われると、それだけでビビリまくってしまって、普段なら問題なくできるはずの作業までミスってしまう始末。今日も今日とて、仕込みをやっているそばからさんざんダメ出しされて、身も心もすっかり疲れ果ててしまいました。


もうイヤ、春巻きなんて大嫌い! だいたい今真夏じゃん! このくそ暑いのに揚げた春巻きなんて喰ってんじゃねーよ。春巻きは春に食え!


......と愚痴っていてもしょうがないので、バイトの帰りにスーパーに寄って、店で作っているのと同じ材料を用意し、家のキッチンで2時間「巻き巻きトレーニング」をしました。しかし、恐るべし私の不器用さ。巻いても巻いても、具材のバランスがぶかぶかで、長すぎたり短すぎたり、太すぎたり細すぎたりで、それはもうきっちり見事に不揃いなのです。二袋用意していた春巻きの皮はまるまる一袋無駄になってしまいました。もうイヤっ、なんでこんなに不器用なんだろう。そういえば私は餃子もきれいに包めないしリボン結びは必ずたて結びになるしボタンかがりをするのに1時間かかるし指をパチンとならすこともできないんだったわ。きっと10本の手指にはぶっきっちょ大魔王の悪霊がとりついているのだわ......


しかし、まあ、やってみるもんですね。二袋目の春巻きの皮もそろそろなくなりかけた頃、ようやくコツらしきものがつかめて、なんとかかんとか形のそろったそこそこ見てくれのいい春巻きを巻くことができるようになったのです。ポイントは左右両方の指を同じように広げて使うこと。


奮闘の後


結局2時間かけて満足に巻けたのは4本のみ。30枚用意していた皮はほとんど生ゴミになってしまいました。でもまあ、よかった。これで明日の仕込みはちょっとは楽になるだろう。あ、でも明日の朝目が覚めたとたんにせっかくつかんだコツをきれいさっぱり忘れてしまったらどうしよう......不安だから今夜は寝ないで朝まで春巻き巻き続けていようかしら。


まあ、いろいろ気苦労が多いバイトですが、なんにせよ「いままでできなかったことができるようになる」ってうれしいですね。たとえ春巻きでも。