アーリーバード夫婦

最近、オットの中で一大健康ブームが巻き起こっている。
20代の頃から全く変わらないスリム体型が自慢で「知性と体重は反比例する」が持論だったオット。私が歯を食いしばってダイエットしているときでも「デブは大変だね〜」などとほざきながらかっぱえびせんなどを食べているイヤミなヤツだった。それが、サラリーマンを辞めてフリーランスになり、自宅での仕事が多くなって3年ほどの間に7㎏太ったのだという。7㎏増えたとはいえ、まだまだ全然標準体重なのだけど、今までのスリムなイメージが強かったのか、最近は人に会うたびに「しばらく見ない間に太りましたね〜」と言われることが多くなって焦り始めている。


加えて、仕事柄、彼が読むことが多いビジネス系の雑誌では
「朝の時間を有効活用して成功をつかむ!」
「早起きの習慣があなたを変える!」
ノルウェイの早起き!」
「超早起き術!」
「早起きの壁!」
「世界の中心で早起きを叫ぶ!」
などの早起きがらみの特集が組まれることが多い。そういう特集を目にするごとに、「明日のニッポンを背負って立つビジネスパーソンな俺様としては、やはり朝はしっかり早起きして生活にメリハリをつけなくては! 時間を有効活用しなくては!」とつくづく思っていたというのだ。


もともとオットは朝にはめっぽう弱く、サラリーマン時代も通勤時間のギリギリまで床から離れることができず、朝はいつもぼんやりしていた。出勤時刻を気にしなくていいフリーランスになってからは、さらに生活が不規則になりがちで、最近では、9時近くまで寝ていることが多かった。まあ、その分夜遅くまで仕事してるんだからいいんじゃない〜? と思うのだけど、きっちり・かっちりのオットは、こんな風になし崩し的に体重が増加したり生活に締まりがなくなってきたりするのは美意識に反するという。


そこで一念発起した彼は、とりあえず「朝6時起き、しかも毎日!」を実践することに決めたのであった。


一口に早起きといっても単純にいつもより早めに目覚まし時計をセットするだけでは長続きしない。単に早く起きるだけではダメなのだ。「いつもより早く起きたぞ〜」という安心感から二度寝してしまったりする。まず、早起きする目的を明確にして、その目的遂行のためには絶対に早起きをしなくてはならないという縛りを自分に与えることが大切なのだそうだ。そして何より重要なのが、早起きを「習慣」としてしっかり体内時計に組み込むこと。


オットが最近読んだ本にはこんなことが書いてあったらしい。

......あらたな習慣を身につけるためには約21日かかります。でも、ほとんどの人は、ポジティブな生活の変化を作り出すことを最初の2,3日であきらめてしまいます。古い行動を新しい行動に帰るときにはつきものの、ストレスや苦痛に耐えられなくなるのです。
 新しい習慣は、新しい靴に似ています。最初の2,3日はあまり履き心地がよくありません。でも、三週間くらい経つと慣れてきて、第二の皮膚のようになるでしょう。......ロケットが発車直後の2,3分で使う燃料は、その後に飛ぶ50万マイル以上の距離で消費するより多いのと同じで、最初の21日を乗り切れば、新たな習慣を身につけてすすむのは、想像していたより遙かに楽なことに気づくでしょう......

このくだりに納得させられたオットは、「とにかくどんなにつらくてもめんどくさくても、なにがなんでも3週間は早起きを続ける! 最初の壁を乗り越えてしまえばあとは習慣になって楽になっていくから」と心に決めたのだった。


すごいな、この熱のこもった自己啓発。ポジティブすぎてまぶしいぜ!


そこで、朝は6時に目覚ましをセット。ただ漫然と早起きするのではなく、てきぱきと着替え洗顔をすませ、すぐに外に出る。朝の新鮮な空気を吸い込みながら10分程度のお散歩に出るのだ。あまり長い時間だと本格的な「ウォーキング」になってしまうが、オットの場合はあくまでも「お散歩」。マンションの周囲の公園をぐるっと一回りして頭と心を目覚めさせるのだ。早起きだけではなく、「早く起きて外に出る!」を当面の目標にするということらしい。


いままで何度となく早起き生活にトライしては挫折、トライしては挫折を繰り返してきたオットのこと、私は「最初は威勢のいいこと言っていても、どーせそーんなの続くわけねーべ」と高をくくっていた。事実、はじめの10日間くらいは目覚まし時計を止めるのもつらそうで、起きてもしばらくぼーっとしていて、次の行動に移るまでに時間がかかっていた。しかし、オットの「石にかじりついても3週間は続ける」という意志は固く、毎朝毎朝蝉の声を聞きながら公園を一周、帰ってきてからは朝刊二紙に目を通し、メールチェックし、朝食を済ませてお茶飲んで一息ついてもまだ8時前、という比叡山の修行僧のような健康的な生活。それがあーた、最初の三週間をクリア、もう一ヶ月も続いているのである。体内リズムを崩さないように、土砂降りの雨の日でも傘を差して出かけるオット。さらに最近は「ただ漫然と歩くのはもったいない」と言い出して、100円ショップでゴミばさみを買ってきて、ゴミを拾いながら歩いている。健康作りと市内美化のコラボである。オット、エライ、というか、ここまで来ると変なヤツである。


オットがせっせと早起きしてゴミ拾いにいそしんでいるというのに、ツマの私がいつまでもぐーぐー寝ているわけにも行かず、ここ2週間は私も一緒に早起きして朝のお散歩に出る羽目になってしまった。成功を夢見るビジネスパーソンなわけでも、健康づくりに目覚めたわけでもなく、もちろん市内美化に燃えているわけでもなく、たんなる義理、無目的の早起きである。


朝の6時に二人でそろって公園にでかけ、その辺に落ちているたばこの吸い殻なんかを拾いながら、今日のお昼はなんにする?とかもうすぐ市民税の支払いが、とか今日銀行行ってこなきゃ、とか、そんなどーでもいいことをしゃべりながら歩き回って、掃除洗濯朝食の支度して食べ終わってもまだ特ダネ始まっていない! バイトに出かけるまであと2時間もある! スバラシイ! 朝の1時間は夜の3時間に匹敵するってほんとですね。なんか一日の密度が違うかんじがしますことよ。出勤時間ギリギリまで寝ていて朝ご飯も食べずに出かける皆様がなんだかお気の毒になってしまうわ。


で、早起き効果で捻出された2時間、何をしているかというと、HDDに録画しておいたロンハーとか、ketketさんから借りた「探偵!ナイトスクープ」の傑作DVD集とか見てるわけです。オットはともかく私の場合は、積極的にバカになるために早起きしているような気がする今日この頃。