わびさび温暖化

お茶の先生から聞いた話です。


お茶のお稽古に欠かせないのが炭。私のようなぺーぺーにはまだまだ先の話ですが、薄茶・濃茶のお点前が一通りできるようになったら、風炉や炉に炭をくべる「炭点前」というのがあるのです。形状や色がそれぞれ違う炭を組み合わせて、その時季・場面に応じた火をおこす儀式です。正確な箸の持ち方ができていないと絶対にうまくいかないお点前で、箸使いがへたくそな私はいまからブルーになっています。


で、その炭点前で使う炭が絶対的に不足していて、茶道界がピンチなのだそうです。茶道界に限らず、国産の上質な炭は後継者がいなくて生産量は減少の一途。焼鳥や焼肉に使う備長炭などはいまや超超レアもの。値段が高いだけではなく、数が限られているので、ごく一部の高級店にしか出回っていないとか。焼肉・焼鳥の店で「びんちょう炭使用」と謳っていても、それは使用しているほんの一部(上の一段だけとか)に備長を使っているというだけで、下の段は輸入もの、という場合がほとんどなんだそうです。


お茶の世界もしかり。炭不足は年々深刻で、絶対量が少ない上に値段はうなぎ登り。私の先生も、毎年毎年お稽古用の炭を確保するのにとても苦労されているとのことです。


「でも、輸入ものの炭はあるわけですよね? それで代用するわけにはいかないんですか?」
と訊いたところ、輸入ものと国産の炭とではクオリティに圧倒的な違いがあり、輸入炭で火をおこすと、炉や釜がすぐに傷んでしまい、とてもじゃないけど使えないのだとか。


「だから、お茶の先生方の中には電気炉に切り替える人も多いのよ。私も電気炉に変えてしまえば、毎年炭の確保にあちこち走り回ったりあれこれ算段しなくてもすむからよっぽど楽なんだけどね。でも、私自身、本物の炭を使ってお点前を身につけてきたんだから、自分の生徒さんたちにも炭を使ってお稽古してもらいたいのよ……できるうちはね」


先生のように四方八方手を尽くして(高いお金を払って)ようやく国産の炭を手に入れることができればそれで安心かというと、それだけでは済まないというのが炭問題の難しいところ。


お茶に使う炭はクヌギがいいのだそうですが、このクヌギ、温暖化の影響で従来より成育のスピードははやくなっているんだそうです。早く生育したクヌギの木は年輪の幅が大きく、従って木目のキメが粗く、いい炭にならないのだとか。


「炭焼きなんてやたら手間がかかる割には実入りは悪いし、いい木は手に入らないし、安い輸入品はあふれているし、後継者が育たないのも無理はないわよね」
と先生はため息をつきますが、炭焼き職人の後継者不足は日本の産業構造の問題だけかとと思いきや、地球温暖化までが影響しているとは思いませんでした。


……そんな話をオットにしたところ、オットも最近耳にしたという加古隆の話をしてくれました


加古隆が、最近のピアノからは心を打つ音色がでない。どうしてだろう?……と疑問に思い、ピアノ製造職人に訊いたところ、
「当然ですよ。いい木がないんですから」と言われたんだそうです。その言葉に衝撃を受けた加古隆は、環境保護運動に関心を寄せるようになり、自然をテーマにした音楽活動を始めるようになったということです。


地球温暖化っていうと、北極の氷が溶けてしまうとか、干ばつが続いて食糧危機とか、太平洋の島が沈んでしまうとか、年々猛暑になっていってエアコン代大変とか、クールビズとか、「環境」と「経済」の視点でしか見てなかったけど、私たちの祖先が長い間育んできた文化や芸術の分野にまで影響を及ぼしているんですね。このまま温暖化が進めば、美しく組み上げた炭でおこした火でチンチンと沸かしたお湯でお茶を点てるすばらしい文化も、人の心を打つ美しいピアノの音色も、永遠に失ってしまうのかもしれません。

そうかといって、私になにができるんだろう? マイ箸やエコバッグを使うことくらいしか思いつかないのが情けないところ。とりあえず、一生懸命お稽古に励んで、はやく炭点前ができるようになろう。国産のいい炭があるうちに。


ついったー始めました。始めたばかりでテンションあがってつぶやきまくっていますが、すぐ飽きること間違いなし。
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