多感なヤカン

ヤカンがほしいのです。ずっと長い間。持ってないわけじゃないですよ、もちろん。2.5Lのお湯が沸かせるステンレスの丈夫なヤカンがあります。結婚したてのころ、ジョイフル本田のセールで買ったもので、たしか980円でした。もう10年以上使っています。でもね〜、好きじゃないんだな、このヤカン。底面積が狭いので、コンロで強火にかけると炎がはみ出してしまう。注ぎ口が広いので沸かしたお湯がどばっ！とでてくる。もっとこう、ちょろちょろと注いでお茶っ葉をふんわりと蒸らしたいのに。なにより、家族ふたりの我が家で2.5Lの容量は大きすぎ。大きいせいでやたらに重い。お茶にしろ紅茶にしろ、２人分ならせいぜい500mlでいいのに、こんな大きなヤカンだと500mlなんてあっという間にシュンシュンに沸き立って蒸発しちゃいます。気に入らない点をあげればキリがありません。これを買った頃はキッチングッズに対してさしたるこだわりも定見もなかったもんだから、ものすごくテキトーに選んじゃったんですよね。一番気に入らないのはデザイン。「安いよ！」「中国製だよ！」「大量生産在庫一掃だよ！」と全身で叫んでいます。

でもヤカンとしての機能だけを見るのなら必要にして十分なのです。何の不都合もなくたくさんお湯を沸かすことができます。なのにああだこうだと難癖をつけずにいられないのは、要するに飽きたんですよ。いったん「もう飽きたな」と思い始めると、毎日使う道具だけに、日一日と疎ましさが増してくるような気がします。

ふたがなくなった、とか、底に穴があいて水が漏る、という致命的な欠陥があればせいせいした気持ちで買い換えることもできるのですが、10年以上も「お湯を沸かす」という地道な任務をきちんと果たしてくれる古女房、「もう飽きたから」という理由でお払い箱にするのはさすがに気がとがめます。長い年月、どんなに乱暴に扱われても文句一ついわず毎日毎日お湯を沸かし続けたあたしじゃないの。いまになって新しいのに乗り換えたいってそんな殺生な。人でなし！　と、お湯を沸かしながら怒っているような気がします。

でもねえ、ヤカンってほんとに毎日使うもので、常にキッチンの目に付くところにおいてあるものでしょう？　毎回見る度に「イヤだなあ」「好きじゃないなあ」と思うのってプチストレスなんですよね。プチなストレスでもう10年です。このヤカン、やたらと丈夫だからあと10年、20年くらいは持ちそうです。20年もこのストレスに耐え続けるのか。プチも積もれば山となる。今朝のワイドショーで小さなストレスの積み重ねが中高年の鬱病を引き起こすって言ってたし。メンタルヘルス的にもこのヤカンを使い続けるのはやばいんじゃないかしら。

ちなみにキッチングッズのお店であれこれ研究した結果、第一候補はこれなんです。

クックベッセル ステンレスケトル AYA 1.5L

どう？　いいと思いませんか？　底面積が広いので炎がはみ出る心配もないし、容量も1.5Lと手頃なのでステンレスの重さも気にならない。なによりコロンとしたデザインがかわいらしい。それでいてデザイン負けせず、使い勝手とデザインがきちんと両立してる。お値段は3675円。980円のヤカンの３倍以上だけど、980円で10年以上も使ったんだから、もう十分元は取っているはず。買い換えたって贅沢とは言えないだろう……。一度買ってしまえばそれこそ10年以上は使うわけだから3675円、10年使ったとして1年367円、１日１円。けっして高くはないはず。いいよね？　いいよね？　買っちゃってもいいよね？

ああ、でもやっぱり思い切れません。世界同時不況のこのご時世、エコエコリサイクルなこのご時世、自分の物欲を満たすためだけにまだまだ使えるヤカンをポイ捨てするなんて。せめて誰かに使ってもらえればと、バイト先の学生さんや友人たちに「ヤカンいらない？10年以上使ってたものだけど」なんて言っても、もちろん引き取り手は現れず……。

そんなことをうだうだと思い悩み続け、キッチングッズ売場であこがれのヤカンを遠い視線で眺め続けているのです。オットはもちろん、私の深い悩みを理解してはくれません。私が毎日毎日どんな思いでヤカンに向かい、お湯を沸かし続けているのか、想像さえしないのです。誰もわかっちゃくれないのさ。

そうだ、さんたさん、さんたさんなら、このくるしいむねのうちを、わかってくれるわよね？　ことしのくりすます、とこりのくつしたのなかに　クックベッセルのやかんがはいっていたら、とってもうれしいです。まいにちはりきっておゆをわかします！　それまでとってもいいこにしてるから！　きっとねがいを　かなえてくれるよね？　クックベッセルのヤカンは、つくばキュートビル１階にある「２１２キッチンストア」というおみせにおいてありましたよ。ざいこは　たったの３こでしたよ。くりすますまで、あるかなあ。しんぱいだ。さんたさん、ちぇけら〜！