ヤマノボリコトハジメ

最近とみにナチュラル化しているオット。ヒマさえあれば茨城周辺の低山を歩き回り、出張先が決まるとすぐに出張先から日帰りできそうな山をリサーチして時間をやりくりして登っています。山好きが高じて森林インストラクターの資格まで取得。こないだはmixi「世界で一番好きなもの」というタイトルで日記を書いていたので「イヤだわオットったらみんなが読む日記で私への愛の告白?おノロケもたいがいしてよねん♪」と照れながら読んだら、彼の最愛のものは「黄葉」なんだそうです。生身のツマより枯れ葉かよ......。


そんなオット、休みとあらば山登りしたがります。山登りは彼のオフ日の最優先事項。まあ私たちフーフは友達少ないしこういう時こそふたりで助け合っていたわりあわなくちゃいけないわよね、と私もおつきあいすることに。ホントのところ、日焼けはするし筋肉痛になるし虫には刺されるし、寒かったり暑かったりいろいろメンドクサ。確かに青空の下で食べるご飯はおいしいけど、それだったら近所の公園でお弁当食べたっていいんだしなあ……。山登りよりどっかのショッピングモールでお買い物しておいしいレストランでランチとかする休日の方が好みなんだけどなあ......。と思っていました。楽しい度45%、しぶしぶ度55%くらいな感じで。


そんなある日、たまたま手に取ったこの本との出会いが、私の山テンションを高めることになったのでした。

山登りはじめました めざせ!富士山編

山登りはじめました めざせ!富士山編

登山はおろか、運動らしい運動の経験ゼロ、体力にも自信のないイマドキの女の子が、お散歩気分の高尾山ハイキングをきっかけに山に目覚め、いくつかの登山経験を経て最後は富士山にまで登ってしまう過程を今はやりのコミックエッセイで描いた作品です。


オットが何冊か登山体験記を持っていますが、その多くは男性か高齢者かその両方の方の手によるもので、登る山は険しければ険しいほど、背負う荷物は重ければ重いほど、宿泊場所は不便であれば不便であるほどエライ!的な「苦行自慢」が満載。過酷な自然に立ち向かい、自分自身を見つめ、時には死と向き合い、苦行の果てに初めて広がる至高の瞬間!山登りとは、自分との戦いだ! というような哲学めいたものが主流でした。こんなの読んじゃったらおいそれと気楽に山なんか登れないわよねえ。


けど、この本で紹介されているのは、登山は登山でもごくごく初心者向け。日帰りか一泊くらいで帰ってこられるお手軽コースです。もちろんロープウェーも使っちゃいます。「便利であること」「楽であること」をタブー視していないところがとても新鮮。


書き手である鈴木ともこさんの性格がすごくキュートで好感が持てる上、同行するお友達やダンナさんもみな親しみのもてるキャラばかり。着眼点がユニークで、ユーモアのセンス抜群。絵柄もかわいい。登山以外の情報、たとえば山頂付近の売店で食べられるスイーツや山小屋でのご飯、登山後のお楽しみの温泉・グルメ、女の子には大問題のトイレ・お風呂のこと。おやつ、おみやげ、ファッション、登山のダイエット効果などなど、登山版「Hanako」といった趣です。「厳しい苦行を乗り越えてこその感動・喜び」といった孤高の「道」「行」じみた登山に「おしゃれ」「わくわく」「ワイワイ」テイストを盛り込むことに成功したとでもいうんでしょうか。この手の体験型コミックエッセイは結構好きで何冊か読みましたが、なかでもこの本は秀逸だと思います。たぶん、今年一番読み返した本。これ一冊読み終わってからはとにかく一日でも早く山に登ってみたい。山頂でおいしいご飯食べたい、おやつ食べたい、温泉入りたい、おみやげ買いたい! と、幼い頃の遠足前のわくわく感がよみがえってきた感じです。 


不思議ですね。この本に出会うだいぶ前から山歩きはしていたはずなのに、この本を読み終わったとたん、山っていいな!山登りステキだな!と、突然、山へのアコガレ度が増大したのです。どんだけ影響されやすいんだ私。いままで一生懸命ガイドしてくれたオットの立場がないですね。


タイミング良く、読後初めての登山は初めての3000メートル級。北アルプス立山連峰にある雄山でした。3000メートル級といっても山岳道路をバスでどんどん上っていくので実際に自分の足で登るのは500メートルくらい。どの登山ガイドをみても(初心者向け)と位置されているビギナー用観光登山でしたが(ジーンズやスニーカーで登っている人も多かった)、あいにくの雨の中、骨の髄まで雨に濡れながらつるつる滑る石だらけのガレ場をよたよた登り、「もうだめ、今死ぬ、すぐ死ぬ、今夜の7時のニュースで遭難者として顔写真が出るんだ。どうせ出るなら一月の初釜の時にお着物着て撮ったあのキセキの一枚がいいな」などと考えてしまうほど極限まで追いつめられ、まさに「死と直面」しつつ山頂を極めたときには涙涙、また涙。いままでにない達成感です。

雄山登頂。びしょぬれで号泣。


そして翌日はこれまでが前日とはうって変わって、申し分のない晴天。雲海からゆっくりと現れるご来光を拝み、まるでハイビジョンテレビの試験放送のような北アルプスの絶景をハイキングして、日本一標高の高いところにあるみくりが池温泉につかって、絶景に囲まれながらお昼食べて、いやあもう極楽極楽。昨日の涙も今日の極楽もすべてひっくるめて最高。初めて心の底から「山はいいなあ」と思いました。

立山登山の詳細はオットのブログで→こちら


なにごとでもそうなのですが、一度ハマり始めるとすぐ道具に走る私。あまりテンション高くなかった頃は登山ウェアは「いいよ全部ユニクロで」という感じだったのですが、山テンションMAXになった今、ステッキを買い、登山靴を新調し、登山ソックスを買い、登山タイツまで購入。通気性と防寒性を兼ね備えたインナーウェア、UV加工が施されたアウターも、超軽量のダウンジャケットだって買っちゃいました。装備が充実すればするほど体力・技術までが格段に上昇するような気がするから不思議です。装備とテンションだけなら剣岳へも登れます。


また、「山と渓谷」をはじめとする登山関連の雑誌というのが物欲を刺激する情報ばっかりなんですよ。まあ、山なんて古今東西ほとんど変わりなくそこにあるもの。「山が動いた」のは平塚らいてう土井たか子の時代くらいなんですから。雑誌中の登山ガイド記事は毎年毎年春夏秋冬、ほとんど変わりはありません。雑誌としての即時性を発揮するのは山グッズや装備の商品紹介です。これが誌面の半分くらい。「山と渓谷」ならぬ「山と広告」です。この靴とこのウェア着てこんな道具持ってこういうリュックを持てば、あなたの今までの山登りがもっともっとステキに快適に!と煽る煽る。


幸いなことに自宅のすぐ近所に老舗の登山用品店「好日山荘」があるので、いまやすっかり常連。今年だけでかなりの額の買い物をしたはずです。好日山荘つくば店の店長は鈴木ともこさんによくお礼を言うように。


新しい世界が開けるってわくわくするものですね。いいんだよ、まずはロープウェーでも。道具からでも。楽して便利でお気楽で。年とってくるとこういう新しい楽しみ見つけることがだんだん難しくなってくるんだから。


これは私の山グッズで一番のお気に入り。プラスチック製・組み立て式のワイングラスとレトルトパウチのワイン。山頂でのワインはサイコーよ♪