末端に罪はない

前回の記事で義父の入院のことを書いたら、
「それはおかしい」
「ぼったくりだ」
「ひどい話ですね」
などの共感のメッセージをいただきました。イマドキの病院ってどこもこんな感じなのかしらねえ......と半ばあきらめモードだった私ですが、やっぱりこの病院に関して抱いていた疑問や不満は見当違いじゃなかったんだなとちょっと安心。


特に、何日も前から決まっていた入院なのにもかかわらず、病院側の都合で大部屋から個室を指定させられてベッド代&入院保証金を倍額要求された件については、
「ベッド代の差額は払う必要ないよ」
とのアドバイスをいくつかいただきました。そうよね、なんでもかんでも病院の言うがままになることないわよね、理不尽なことにはきっちり声を上げていかなければなめられちゃうわ。ニッポンの医療制度の明日のためにもここはきっちりクレームつけなきゃだわ!きっちり言うわよワタクシは!
と鼻息荒く決意し、フンフンっ!と入退院手続きの窓口に乗り込みました。


「昨日、大部屋が用意できなかったから個室に入れって言われて、しかも個室だから保証金も倍額出せって言われたんですけど、事故や急病で入院するならともかく、うちの場合、何日も前から決まっていた入院でしょ? 前日になって『個室しか準備できなかった』って言われてもあーた。しかもペースメーカーの点検なんて実質半日しか病院にいないのに、7,350円も取られて、保証金も倍額取られるなんて信じられない。おかしいんじゃないですか? 」


窓口にいたのは二十歳そこそこの女の子でした。なるべく穏やかな口調で抗議したつもりでしたが、私の鼻息の荒さにびびったのか、
「少々お待ちくださいませ」
と奥の事務室に引っ込んでなかなか出てきません。10分以上待たされて、
「大変申し訳ないのですが、病室の空き状況というのはギリギリになるまで判明しないんです。今回のことは私たちも予想できなかったことで......すみません......」
「でも、それはそちら側の都合であって、そのために私たちが余計なお金を請求されるのは納得いかないんですけど?」
「......そうですよね......はい......申し訳ありません......」
「たった半日しか入院しないのにななせんえんなんて。しかも私たちは連帯保証人省略だから、保証金にじゅうまんえんですよね?」
「......そうなりますね......すみません......」
「うちはたまたま用意できたからいいけど、突発的なケガや病気で急に担ぎ込まれた患者さんにも差額のベッド代やら保証金倍額やら請求するんですか? 現金で? 10万20万なんてお金、いきなり工面しろと言われても困っちゃう人もたくさんいると思うんですけど?」
「......そうですよね......。お困りでしょうね......。でも、そういう決まりになっているんです......申し訳ありません......。」


窓口でしばらくやりとりしているうちに、待合室の空気が私たち二人に集中しているのがわかりました。私の後ろには、受付待ちの人が2,3人、迷惑そうに様子をうかがっています。私はつとめて冷静に、穏やかに話しているつもりでしたが、対応している女の子が、明らかに萎縮して泣きそうな顔で平謝りするので、はたから見たら「理不尽なクレームつけて純朴な受付嬢をねちねちいびっているモンスターおばさん」に映ってるだろうなあ......みんなの視線がぴりぴり痛いよ......。


まあ、この病院のシステムに問題があるにせよ、末端で作業しているこの女の子にはなんの罪もないしなあ。こんなに若い子でケナゲにクレーム処理してるんだもん、かわいそうだよなあ......。私のことおっかねーと思ってるだろうなあ......等々、いろいろ考えてしまって
「じゃあもういいです。上の方にしっかり伝えてくださいね」
と言い残して引き下がってしまいました。


ほんとだったら「責任者を呼んでください」と要求して、それなりの立場の人にきっちり抗議すればよかったんでしょうが、私ごときがクレームつけたところでシステムが即座に改善されるわけでもないし、この病院にはこれからもずっと義父がお世話になるわけだし、あまり騒いで印象悪くするのもねえ。この病院、人手もたりなさそうでみんな忙しそうにしているのに、私みたいなクレーム処理で時間取らせるのもいかがなものか。いいじゃないか、入院は半日なんだし、保証金は戻ってくるんだし、ちょっと我慢すれば。いまは世の中の空気が変わってるんだから仕方ない。空気読め、私......。みんなが私を非難がましく見てるじゃないか。


今度はこちらがどんどん萎縮してしまい、なんだかしょぼーんとしてしまいました。萎縮してしまった自分が情けなくてさらに自己嫌悪。日記ではガンガンほえるくせにリアル対応だとまともに抗議もできないのね。しょせん私は「書くだけ番長」......。とほほ......。


さて、これからこの日記をアップして、洗濯物ほしたら、退院手続きに行かなければなりません。窓口にはまた同じ女の子がいるんだろうか。私を見ておびえるんだろうか。いやだなあ。窓口に若いかわいいケナゲっぽい女の子を配置するのって、病院側の策略かもしれないわね。


医療制度の矛盾と周囲の視線との狭間で苦悩する私に、青森に出張に行ってたオットがこんなおみやげを買ってきてくれました。


生まれて墨ませんべい
「苦悩」は、意外と満腹感で薄まります。さあ、バリバリ食べて、太宰治的悩みを美味しく解決しましょう。


だそうです。んじゃ、バリバリ食べて出かけるか。グッド・バイ。