海の上の疾走?

会場の「あやはし海中道路」とは、沖縄本島中部の与勝半島から浜比嘉、平安座島、宮城島、伊計島へという島々をつなぐ全長約5kmの巨大な海の上に浮かぶ橋のことです。海の上にあるので眺望は360度海!晴れた日はこのように360度を海に囲まれたスバラシイ眺望。

その橋の真ん中を海風に吹かれながらいっきに駆け抜けるサイコーに気持ちのいいレースになる!......はずだったのですが、この日はひどい土砂降り。360度どころか、雨が顔中に当たりまともに目を開けてられません。スタートの号砲が鳴った後、雨はさらに激しさを増し、一般道路に出る前の陸上競技場をゆっくり一周する段階でもうドロドロのびちゃびちゃになってしまいました。最初は「まいったなー。カラダも靴もぐちゃぐちゃに濡れちゃうよ」とテンション下がっていた私ですが、ここまで思いっきり濡れるなんてすっごく久しぶり。むしろ気持ちがいい。


レースの時は周りの雰囲気に飲まれて普段以上のペースで走ってしまい、後半バテバテになることが多いらしいので、走り始めは「とにかくゆっくり、ゆっくり」と呪文のように言い聞かせていました。というか、雨が目に入らないようにうつむき加減で走っているので周りを見る余裕なんてない。例年なら沿道いっぱいに地元の人たちがにぎやかに応援してくれるのだろうですが、雨のせいか応援も少なめ。それでもエイサー太鼓やかちゃーしーなどで「ホレホレホレ、がんばれがんばれ!」と声援を送ってくれる地元の小学生やボランティアスタッフだち。こんなひどい雨の中、私のためにずぶぬれになって応援してくれてありがとう......とうるっと来てしまいました。


3kmほど走ったところで給水所がありました。おおっ、これがテレビのマラソン中継などで見かけるあれか。走りながらさっと紙コップを取って一気に飲み干してそのままパッと横に投げ捨てるのよね、かっくいーー!Qちゃんみたい! とミーハー心がわき上がり、大してのども渇いていないのに紙コップをさっと取り、一口飲んで、パッと投げ捨てました。かっこいい、いま私、かっこいい! といい気分になっていたのですが、周囲をよく見ると、みんなは少し離れたところにあるゴミ箱まで紙コップを持って走り、そこに捨てています。「さっと取ってパッと捨てる」なんてホンモノのアスリートがやることであって、普通はゴミ箱に捨てるのよね。あとで片づけるのはボランティアスタッフさんなんだもん......
ごめんねごめんね〜としょんぼりしながら、それでもどんどん走ります。


いつもは音楽プレイヤー起動させているのですが、今日はなし。こんなに長い距離を音楽なしで走るのは初めてです。少し雰囲気になれてくると、周囲のランナーたちの会話などが聞こえてきます。
「きつい〜。先行ってていいよ」
「雨が顔に当たる〜」
「せっかくの海上道路なのになんも見えないね」
前後を走るランナーの足音、息づかい、すごくクリアに聞こえます。


今回、私はある決意をしていました。それは絶対に歩かないこと。なんだ当たり前だと言われるかもしれませんが、一人で練習してるとちょっとキツかったり、プレイヤーの操作に手間取ったりしてで2,3分歩いてしまうことが多かったのです。キツイのに無理して走ってケガしてもしょうがないし、歩いたところで誰に怒られるわけでもないのですが、毎回歩くたびに小さく「負け」た気がしていたのも事実。でも今日は練習じゃなくて「マラソン」で、私が目指しているのは「完走」であって「完歩」じゃないんだもん。少しでも長い距離を「走り」通したい。ほんの数ヶ月前まで10kmどころか100m走りきるのさえおぼつかなかった私がここまで頑張って練習してきたんだもん。どんなにきつくてもどんなに遅くても絶対に歩かないぞ!


周囲のランナーたちの声や沿道の声援に励まされながら、顔にかかる雨をぬぐってぬぐって、せっせと走ります。それにしてもひどい雨。Tシャツの裾を軽く絞ったらじゃーっと雨水が絞れました。雨水をたっぷり吸い込んで、重く感じられます。でも走る。走る。歩かない。


ようやく折り返し地点が見えてきました。あと5kmか。折り返し地点からスタートした陸上競技場を見ると、ずいぶん遠くに見えます。これからまたあそこまで戻るのかあ。大丈夫かな。でも走る走る。ゆっくりでもいいからとにかく走る。雨がひどくて距離表示がよく読み取れません。後どれくらい走ればいいんだろう。ゴールの陸上競技場はまだまだずっと遠くに見える。


「あとどれくらい?」と思いながら走るのは苦しい。でも、沿道の小学生たちとハイタッチをすると気分がリセットされて「おしっ!」という気持ちになれました。「人と触れあう」てこんなにうれしいことなんだ。スキンシップって大事だなあ。給水所の水も、エイサー太鼓もかちゃーしーもうれしかったけど、一番励まされたのはこのハイタッチです。


あ、ようやく海上道路が終わり、陸上競技場に向かう一般道になりました。会場のアナウンスも聞こえる。ゴールが近づいてきた、ゴールが見えてきた、ゴーール!! やった! 人生で初めて、一度も歩かずに10kmを走り通したぞ! やればできるじゃないか! 自分で自分をほめたい!


ゴールの瞬間、感動のあまり涙が出るのかと思いましたが、とにかく雨と泥がひどいのでそそくさと簡易テントに行き、チップを外してその場でプリントアウトされる完走記録証をもらいました。タイムは1時間9分37秒。計算したらだいたい1kmを6分50秒くらいで走っていました。これは今までの最高ペース。あれだけの雨と泥だったのに、「本番になると普段よりずっと速く走れる」っていうのはほんとうだったんだ。


一人で走って、一人でゴールして、一人で帰るのかなあ、寂しいのう......と思っていたのですが、スタート直前に連絡の取れた高校時代の同級生が車で拾ってくれて、プチ祝賀会を開いてくれました。となりまちにあるスーパー銭湯に連れて行ってくれて、超有名なタコスのお店「キングタコス」で祝杯(といっても、その店には私が飲めないビールしか置いてなかったのでジンジャーエールで)。



「あのとこりが10km走るなんてねえ〜」とつくづく驚かれました。そりゃそうだ。私だってびっくりよ。


twitterで完走したことを報告すると、たくさんの人から「完走おめでとう」のメッセージ。ケータイにも親類や友人たちから「どうだった?」「完走?おめでとう!」のメールがたくさん。ううう......みんなありがとう。私、「孤独なランナー」じゃなかったのね。


この日、4月4日は私の40歳の誕生日のちょうど1ヶ月前でした。たかが10kmだけどこの10kmだけは、誰の力も借りず、自分だけの力で最初から最後まで頑張って「走った」10kmです。自慢できる距離やタイムじゃないけど、誇らしい。このゴールは自分から自分へのバースデープレゼントです。これまでいつも誰かに寄りかかって、もたれかかって、楽な方に楽な方にと、のろのろと歩いていた私ですが、30代の終わりに、10km走り通すことができて、ほんのちっぽけでも確実な達成感をプレゼントされたことはほんとうにラッキーだったと思います。こんな充実感は久しぶり。走ってよかった!


この達成感と充実感にすっかり味を占めて、帰省後、さっそく6月のレースにエントリーしてしまった私です。このレースはいまや「ラン友」であるketket夫妻と一緒です。次回はもう少しいいタイムでゴールしたいなあ。もっともっと速く、もっともっと長く走れるようになりたい。小さいけど、「目標がある生活」っていいもんだ。せいぜいケガしないように、身の丈にあったペースで、これからもえっほえっほ走るぞ〜。


というわけで、おわり。はー、やっとおわった!