空回りしてる?

午後からお客様が来る。最近知り合った同世代の女性。2,3度顔を合わした程度のつきあいだけど、ついこないだ、偶然、住まいがものすごく近所ということがわかったので、「一度お茶でも」ということになった。ごくごく軽いノリの来訪である。軽いノリのはずなんだけど、迎える私にとっては軽くないんである。オオゴトである。


なにせ、我が家を訪れるのが初めてのお客様である。今後のつきあいを考えておく上で、第一印象の好感度をマックスまで高めたいと思うのは当然の心理ではないか。あまり気合い入れることない、ナチュラルに、フレンドリーに、シンプルにおもてなしすればいいのだよ、とわかってはいても、とにかくちょっとでもいいカッコしたい、賞賛されたい、見て見て!もっともっと! と、思ってしまう哀しきクジャク根性。昨夜から大騒動で掃除と料理に没頭である。リビングの窓ガラスを磨き、トイレを掃除し、観葉植物に液肥を与え、バルコニーに咲いているパンジーの植木鉢を一番目立つ場所にディスプレイし、BGMはナラ・レオンのベスト盤。お出しする料理は、3時間煮込んだラフテーをのっけた沖縄そばである。つーか、また沖縄そばかよ! 他にないのかよ!


約束の時間、チャイムを鳴らす彼女。ユニクロの2000円バージョンのブラウスでちょいとおめかしした私がにこやかに招き入れると、そこは別世界。リビングには感じのいい音楽が流れ、陽光降り注ぐバルコニーで咲き誇るパンジー。部屋は趣味よく品よく整えられ、どこもかしこもピカピカ。「たいしたもの作れなかったけどこんなお料理でよかったら......」と、心づくしの沖縄そば。丼もこないだジョイフルで買った、ちょっとオシャレ系のヤツに入れて、ランチョンマットに箸置きだって置いちゃいます。楽しいおしゃべり(趣味の英会話の話)とおいしい食事のあとには、手作りのデザートとフォションの紅茶。ジャージでうろうろ歩き回るオットが目障りなので、しばらく書斎に格納しておこう。


きっと彼女は、「んまあ、なーんてステキなマダムなのかしら。センスよし、料理よし、顔よし、スタイルよし。まさにパーフェクト。スバラシイ!」と感激し、周囲の誰彼に今回のティータイムの感激を言って廻るに違いない。むふふ。


そんな妄想と野望渦巻く中、張り切ってデザートを作った。白ワインとフルーツを使ったリング型のゼリーである。黄桃、パイン、ミントの葉が涼しげに浮かぶ黄金のゼリーは、思いの外上手に固まって大成功である。私がなにより重視する「見た目」もバッチリ。


うれしかったので、ゼリーのお皿をオットに見せて、「どうよ、どうよ、プロのできばえでしょ? オシャレでしょ? マダームでしょ?」と自慢する。
 
 
オットはちらっと一瞥して、
「なに、この周りに飾ってある花は?」と言う。
「これ? バルコニーのパンジーをあしらってみたのよ。 ナチュラルでいながらゴージャスな感じがしていいでしょ?」
「悪いけどさ、それ、やめた方がいいよ。すげえヘンだから。ムダに力はいりすぎ。気合いが空回りしてるよ。もっと落ち着け」と鼻で嗤われた。


何を〜〜〜〜〜〜〜〜っ! ひどい、ひどい、言うに事欠いてなんなのよ! 私のこのフードスタイリングのセンスがわかんないの、あんただけですから! 削除、削除! けっ!


――と激怒したんけど、なんか不安になってきました。これが、その、デザートのアレンジです。私の精一杯のオシャレゴコロ、伝わるでしょうか? やっぱ、ヘン?