スーコー菓子

レモンケーキ

全国共通だと思っていたのに、実は地域限定だったと知ってびっくりした、という経験を持つ人はけっこういると思う。ところてんは酢醤油だと思っていたら関西では黒蜜と聞いてびっくり、とか、マックスコーヒーは茨城・千葉でしか売っていないと知ってびっくり、とか二木ゴルフのCMは関東限定だと聞いてびっくりとかね。


写真は、小さい頃からの私の大好物、レモンケーキである。水気が足りなくてどこかぱさぱさした感じのスポンジに、いかにも業務用!的レモン風味のアイシングがかかった、レモンの形のケーキである。沖縄ではどこのスーパーでも売っている超ポピュラーなお菓子。私は小さい頃からこのレモンケーキが大好きで、大学生になって上京した後、無性にこのケーキが恋しくなり、あちらこちらのスーパーやケーキ屋さんを捜し回ったが、どこを探しても見あたらないので非常にがっかりしたおぼえがある。「レモンケーキ知らない? レモンの形をしててさ、黄色いアイシングがかかっていて、一個70円くらいで、スーパーとかに売ってるケーキ?」と、いろんな人に聞いてみたけど、「知らないなあ」と首をかしげるばかり。どうやら私の大好きなレモンケーキは沖縄限定のモノらしいと、その時気づいたのだった。


以後、実家の母親から「なにか送って欲しいものはないねえ?」と電話がかかって来るたびに「ポークと、さーたーあんだぎーと、あとレモンケーキね!」と必ずリクエストしていた。


いまでこそ、沖縄にもガトー・オ・ショコラとか、ムース・オ・フランボワーズなどのこじゃれたケーキを売る「パティスリー」もできているが、私が幼い頃は、ケーキ屋さんに置いてあるケーキと言えば、バタークリームこってりのショートケーキやチーズケーキ、シュークリームくらいで、バリエーションが非常に貧弱だった。そもそもケーキだけを専門に扱う店もそんなになかった。そんななか、一個70円とか80円で、どこのお店に行っても置いてあるこのレモンケーキは、手軽に買えて、袋入りのスナック菓子とはひと味ちがう、ほんのりオシャレな気分が味わえる、とってもお得なケーキだったのだ。「lemmon cake」としゃれた書体の英語のパッケージもどことなくオシャレな感じがして、ワクワク感が高まった。今みたいにおいしくて本格的な「スゥィーツ」に囲まれている今の沖縄の子ども達はどうか知らないけど、幼い頃の私にとっては「おやつヒエラルキー」の頂点に君臨するスーパースターだったのである。


ちんすこうやブルーシールのアイスクリームなど、昨今の沖縄ブームに乗っかってすっかり全国区になった沖縄発のスゥィーツもあるけれど、レモンケーキは未だに沖縄ローカル限定である。まあ、ちんすこうと違って、レモンケーキには「沖縄!」を連想させる要素があまりない、というのも理由のひとつだろう。なのに、どうして、このお菓子は沖縄でのみ、流通し、偏愛されるのか?――と私は常々不思議に思っていたのだった。



以前読んだ、ある雑誌のコラムで、この私の長年の謎を解き明かすコラムが載っていた。
沖縄でレモンケーキが重用される理由。それは、
「このケーキが重箱に詰めるのにちょうどよい形であり、しかも日持ちがするので、法事のお供え物に最適だからだ!」
というのだ。


なるほど! やさやー!*1
そう言えば、お盆や正月、清明(シーミー)祭などの、行事にはコー菓子(落雁)やおまんじゅうなどと並んで必ずこのレモンケーキもお供えされていた。ひとつひとつ個別包装されているし、水気の少ない業務用スポンジは日持ちがするし、しかも不思議なことに、上にかかったアイシングは真夏のかなり気温が高い時季でもなぜか溶けてドロドロになることがあまりなかったのだ。


年がら年中、なにかしらのスーコー*2があって、お重に料理やお菓子を詰めて墓やむーとぅー家*3で親類縁者が集まって宴会する沖縄に、まさにうってつけのお菓子だったのである。


なぜレモンの形なのか? いつ、だれが考案したのか? このお菓子の成り立ちには謎が多いが、ポルトガルから伝来したかすていらのように、いまやウチナーンチュの生活にぴったり密着した必須アイテムである。


「重箱に詰めやすいから」という理由で重用されるレモンケーキ。ちんすこうやブルーシールのアイスクリームより、こちらのほうがある意味、ずっと沖縄っぽい。ザ・キング・オブ・スーコー菓子!



先日の帰省した折り、「とこりは小さい頃からこれが好きだったよねえ」と、母が近所のスーパーでレモンケーキを箱入りで持たせてくれた。20個あったレモンケーキ、もう3個しかない。オット、勝手に食べるなよな!

*1:沖縄方言:そうだよね〜

*2:沖縄方言:法事のこと。「焼香」から来ていると思われる

*3:仏壇のある家