ご長寿祈願

森茉莉「記憶の繪」というエッセイ集の中で、自分の家事能力を評して、

料理以外は、洗濯も、掃除も、裁縫も、小さな紙をなくさずに取っておいて、期日までに金を納めたりするようなことも、家庭の用事は一切駄目である。

と書いている。


私は森茉莉ほどじゃないけど、料理はそこそこ好きだし、掃除もまあ、マメにする方だと思うけど(掃除は好きだけど「整理整頓」は嫌い。掃除と整頓は似て非なるものだ〜)、洗濯ものを畳むのは嫌いだし、裁縫なんか鳥肌が立つほど嫌い。そして、森茉莉と同じように、「小さな紙をなくさずに取っておいて、期日までに金を納めたりするようなこと」が一番苦手である。この小学生でも出来るような基本的なことが、私にはどーしてもできない。


今日も、義父の医療費受給者証とマルフクの用紙(どういう意味がある用紙なのか未だにわからないが、これがないと病院で支払いが出来ない)がどうしても見あたらなくて、あちこちひっくり返して大騒ぎになった。オットは、ちょっと前に市役所から送られてきたのを見た、というし、私も、そう言えばそんな封筒、みたことあるよなあ、とうっすら記憶にあるような気がするのだ。「あ、これ、大事なモノだ、ちゃんとしまっておかなきゃ」と思って、「とりあえず」ここに置いておこう、とどっかに置いたのはおぼえているんだけど、その「とりあえず、ここ」の「ここ」が「どこ」なのかどうしても思い出せない。


一事が万事、こんな風で、ネットで買い物をしたときの明細表とか、市民税の納付書とか、マンションの管理組合のアンケート回答用紙とか、全部「あ、これ、なくしちゃいけないものだわ、大事にしまっておかなきゃ、とりあえず、ここに置いておこう」とどっかに置いて、何日か経つと、それらの紙切れたちは、静かにふっと、闇の彼方に消え失せてしまうのだ。


「期日を守る」のも苦手で、学生の頃、レポート提出はいつも遅れて出して、お情けで受領してもらうクチだったし、卒論も提出期限の一日前にかろうじて書き上げた。図書館の本やレンタルヴィデオなどの貸出期限もなかなか守れない。ソフト本体より高額の延滞料金を払ったことも一度や二度ではない。


几帳面大魔王のオットは、5年前の海外旅行で昼食に入ったハンバーガーショップでのレシートも大切にとってあって、しかも、必要とあらば(必要になることなんてほとんどないけど)、いつでもたちどころに取り出すことが出来るという、恐るべき特技の持ち主なので、私のこのずぼらさが理解できないらしい。最近は、私の事務処理能力の低さを見限ったオットが「そろそろ返す頃なんじゃないの?」としつこくせっつくので、少なくともレンタルビデオ・図書館の本に関しては期日オーバーになることはほとんどなくなった。


今日のニュースhttp://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050722i412.htmによると、日本人女性の平均寿命は世界一で85・59歳、男性は78・64歳だという。平均寿命通りに行けば、オンナは男より7年近く長生きすることになる。私はオットより2歳年上なので、5年か。順当に行けば、5年は未亡人・とこりとして1人で生きていかなければならないのだ。


しかし、オットに先立たれたあと、電話代とか電気代とか水道代とか市民税とか介護保険とか町内会費とか保険の切り替えとか定期の解約とか利息の計算とか固定資産税とか確定申告とか、そういう細々とした事務業務はいったい誰が引き受けてくれるのだろう? 私が1人でやらなければならないのだろうか? 「お支払いのお知らせ」と書かれた紙をなくさずに取っておいて、期日までに納め、いつ、どこに、いくら払ったか、をきちんと把握することが、果たして私に出来るだろうか。出来るわけない。絶対に出来ない。35年間生きていてもまともに出来ないのに、80過ぎて出来るわけがない。ありえねー! 


このズボラにつけこんだ悪徳金融業者とかリフォーム業者とかに架空の請求書切られて、身ぐるみ剥がされて、一文無しになってのたれ死ぬのかもしれない。ああ、いったいどうなる、私の老後? 考え始めると、不安で不安で夜も眠れない。


オット、長生きしてくれ。頼むから!