パンと学力

たとえばこんなパンのレシピがあります。

強力粉 200g
砂糖 大さじ2
塩 小さじ1/2
膨張剤 小さじ1
油脂 20g
水分 140g


これは中型のパウンド型(20×8×6㎝)1本分の配合。かなり小ぶりのパンになります。私がパン専用として持っているのはもう一回り大きいパウンド型(24×12×8㎝)。この配合だと、型に対する生地の量が少なすぎるので、強力粉を50g増やして250gの配合にすればちょうどいい大きさに焼き上がるはず。


そこで、上記のレシピを強力粉250gに変更することにしました。当然、そのほかの材料も粉の増量に比例して増やしていかなければなりません。


ここで、みなさんならどんな計算をしますか?


私は、まず
強力粉を100gとした場合の、そのほかの材料の分量を出す
たとえば
「強力粉100gにすると、砂糖は大さじ1 塩は小さじ1/4......」と順次計算していく。

次に
増やしたいのは強力粉50gだから、強力粉100の時の砂糖の量を、さらに半分に減らす。
たとえば、
「強力粉100gの場合の砂糖=大さじ1÷2=砂糖大さじ1/2」
「強力粉100gの場合の塩=小さじ1/4÷2=塩小さじ1/8」
と順次計算していく。

さらに
そうやって出した強力粉50gの場合の材料の分量を、最初のレシピに足す。
たとえば
(強力粉50gの場合の砂糖・大さじ1/2)+(強力粉200gの場合の砂糖・大さじ2)=(強力粉250gの場合の砂糖大さじ2・1/2)

こんな具合に計算して、塩、油脂、膨張剤、水分をそれぞれ算出していくのです。


ふう......。強力粉250gの場合の砂糖の量を算出するのにこれだけの手間がかかるのです。
いまだに「かけ算の7の段と4の段」にあやしい箇所がある数字大嫌い人間、しかも猿並みの集中力しか持っていないワタクシが、毎度毎度このようなしちめんどくさい計算をして、パンを焼いているのです。当然、間違えます。3回に1回は計算間違いが発生します。


特に「大さじ1/2をさらに半分にして、そのまたさらに半分にして、元の大さじ1/2に足す」という分数の計算が鬼門。しょっっっっっっちゅう間違えます。この煩雑な計算式のために、これまで何㎏の粉をムダにしてきたことか......


家族においしいパンを食べてもらうために、私はこれだけ頭使っているのよ。見てご覧なさい、この計算メモだらけの私のレシピ本を! と、私の苦労のあとをオットに見せたら、オットは、ちらっとその計算メモを見て、
「......なんでこんなめんどくさいことしてんの? バカじゃないの?」
と無情にも言い放ちます。
なんですと! バカとはなによバカとは! きーーーーーーっ!


「だってこうやってきちんと計算しないと正確な分量は割り出せないじゃない!」
「だから、もっとラクに計算する方法があるだろ。たとえば強力粉200gのレシピを元にして250gの配合を算出したいのなら、最初に250÷200=1.25という係数を出しておくんだよ。そして、そのほかの材料を全部gに直して、1.25をかけていけばいい。簡単でしょ」
「でもでもでも、この砂糖大さじ2とか塩小さじ1/2とかはどうするのよ? 大さじ2に1.25をかけるなんてできないでしょ!」
「だから、そういう場合は、あらかじめ大さじ2杯分の砂糖のグラムを出しておくんだよ。砂糖大さじ2で24gでしょ? 24×1.25=30g 大さじ2・1/2なんかより、ずっとわかりやすいでしょ? 油脂の量も水分の量も、すべて元のレシピに1.25かけていけばいいんだよ。そしたら計算は一回で済むよ」
「......すごい......。あなたって、頭いいのね。ソンケーしちゃった。同じ大学出てるのにどうしてこうも違うのかしら? オット、クレバー! スマート! らぶらぶらぶ〜」
「つーか、とこりがアホすぎ。こんなの、小学生レベルの計算だよ。学力低下って最近の子ども達のはなしだとばっかりおもっていたけど、とこり世代から始まっていたんだね。公文の塾でも行ってみれば? けけけ......」


むきーっ! バカにされた!


ねえねえねえ、私、特別バカなんでしょうか? みなさんだったら、どうやって計算する? この程度の計算、普通のオトナだったらさっささーとやっちゃうものなんでしょうか?


算数や理科や化学の知識なんて、生きていく上でまったく必要ナッシング。足し算引き算かけ算割り算さえできれば、人生渡っていける! と豪語していた私ですが、どうやら「かけ算割り算」部門、かなり貧弱らしい......。この歳になってまだこんな落ちこぼれ気分を味わうことになるとは......。ちょっと凹んでいます。