アレの相性

うちのオットは、食べ物に対する思い入れ・執着があまりない人間である。


どっかになんか食べに行こう、どこにする? と聞くと、「どこでもいい。とこりの好きなところで」。

お店に入って、何頼む? と聞くと、「何でもいい、とこりの好きなもので」。


そして、料理が出てきても、とくに何の感懐もなく黙々と食べる。いや、食事の間、会話がないわけではない。ただ、食べ物に関する話をほとんどしないのだ。出された料理にはあまり興味を示さず、食べ物以外の話ばかりする。「これどうやって作るんだろう?」「うまいよね、今度家でも作ってよ」「この値段にしてはお得だよね」「ちょっと量少ないんじゃない?」などなど、ああだこうだいいながら食べるのが楽しいのにさ。とにかく淡泊なのだ。


私はたいがい食いしん坊なので、オットのこの淡泊な態度ははなはだ欲求不満である。
もっとさー、目を輝かしてさあ、貪欲になって欲しいわけよ。食に対して「華やぎ」を持って欲しいわけよ。


それはたとえばこういうことだ。


こないだバイトの同僚と、「今日の夕ご飯なんにする?」という話をしていた。彼女は
「今夜は絶対豚キムチなの! 昨日ダーリンと約束したんだ」
と言う。
「ダーリン、豚キムチが好きなの?」
「ちがうちがう、昨夜ダーリンと二人で『どっちの料理ショー』見てたの。昨日は豚キムチゴーヤーチャンプルー対決でね。そんときの豚キムチが超〜〜〜うまそうでさあ。よし、明日はおいしいキムチと上等の豚バラ肉買ってきて死ぬほど豚キムチ食べるぞ〜って夜中に盛り上がっちゃって。それで、今夜は豚キムチ


聞けば、彼女と彼女'sダーリンは食べ物の趣味が非常に合うらしく、「おいしいお好み焼き食べたいね」とふと思いついて、夜中に車を飛ばして大阪までお好み焼きを食べに行ったとか、ラーメン屋巡りが好きで、このあたりの人気店はほとんど二人で食べ歩いたとか、自分地の庭で薫製を作ったとか、そんな楽しそうなエピソードがたくさんあるのだ。食に対して沸点が同じ、っていいよなあ。楽しいよなあ。


これが、我々フーフみたいに温度差がありすぎると、こうはいかない。


たとえば、旅先で。
少ない情報を頼りに、ちょっとでもよさげなレストランに入ろうと、あちこちさまよい歩く私。
オットは食事の場所・メニューなどに関しては全面的に私に委任しているので(自分で考えるのがめんどくさいから)、私の後を黙ってついてきてくれるのだけど、私が「ここはどうかな?」「おや、ここもよさそうだ」と、あれこれ迷いながら歩いていると、次第に「どこでもいいから、どっかその辺でテキトーにさっさとすませようよ!」と思っているのがありありとわかる。


それからテレビを見ているとき。
テレ東あたりで年がら年中やっている「激ウマ! 食べ放題の店!」とか「絶品! ニッポンのラーメン」とかいうグルメ情報番組を見ていて、「あ、ここのラーメン、家系の中では異端よね」「あ、この店のカレー、一度食べたことある。好き嫌いが別れると思うなあ」「へえーっ。いまの食べ放題ってクオリティ高いのねえ」「うそ! この店すごくうまそう! 今度絶対行こう!」などなど、いろいろコメントを差し挟んでいると、テレビは見ずに新聞を読んでいたオットに、ぼそっと「あんた、ほんとにそーゆー番組好きだよねえ」なんて言われてしまうのだ。


それから、さっきの話にも出てきた「どっちの料理ショー」を見ているとき。
あの番組の開始時間は夜九時。夕食を済ませて、食後のお茶を飲んでいる時間だ。私が「え?今日はベーグルとフィッシュバーガー対決?んなのベーグルに決まってるじゃない! 勝負になるわけないじゃない!」だの「うわ〜、この素材、たまらん、うまそ〜」「あ、草薙!寝返ったな!」などなどきゃあきゃあ言いながら見てると、あきれ顔で「あんたさ〜、いまさっき夕飯済ませた直後によくそんなこってり料理の番組なんか見られるよね。すごいよ」とか言うのだ。


ダイレクトには言わないけれど、私のこと「食べ物のことばかり考えていてバカみたい」と思っているんだよ、絶対!
オットは根がサムライっぽいところがあるので、なんにせよ「耽溺する」ということがない。熱くなるとか、我を忘れるということもあまりない。頭のどこかはいつもクールなままだ。人並みに欲はあるとは思うんだけど、己の欲望をあからさまにしないこと、欲望をスマートにセーブすることが彼の美意識なんだろうな。


だから、私のように、無邪気に無防備に「うまそう! おいしそう! 食べたい〜〜!!」と「♪」つきではしゃいでいる人を見る視線がシビアになってしまうのだろう。なんか、自分が四六時中食い物のことしか考えていない浅ましい人間に思えてきてしまう(その通りなんだけどね)。スタイリッシュなのはわかるけどさ、もっとさ〜、がつがつしようぜ! 健康で、平和で、三度三度おいしいご飯が食べられるのは、ほんとに幸福なことなんだから。


みなさんは、パートナーとの食の相性はいかがですか? 温度差を感じて欲求不満になることありませんか?