大入りとプライド

この週末、つくばの街は、つくばエクスプレス開業と合わせて開催された「つくばフェスタ」というお祭りで、上を下への大騒ぎだった。幹線道路は軒並み通行止め。目抜き通りには、いったいどこから湧いてきたんだ? と思うくらい、どこもかしこも人人人人......。我がマンションのすぐ近くの公園沿いの遊歩道にはずらっと屋台が出ていて、おまけに大道芸大会なんかもやっていて、原宿か、ここは? というくらいの大混雑。チャリで5分のスーパーに行くのに20分近くもかかってしまった。人大杉。もうぐったり。もちろん、駅ビルの中に入っているレストラン街は開業以来の大繁盛。ハンバーガーやうどんのフードコートですら、中に入るに30分以上も行列したそうだ。つくばなのに! 茨城なのに! 


そんなこんなで、つくば中心部はいまだかつてないほどの大フィーバーだというのに、大通りから奥まった場所にある我がバイト先のレストランには、そのフィーバーの恩恵はまわってこない。TXが開業したら、駅前周辺から人が流れてくるかな〜と期待していたのだが、甘かった。客足はここんとこ低空飛行。ニッパチのご多分に漏れず、八月の売り上げはさっぱりである。これじゃ、今月赤字決定じゃん! 大丈夫? と、他人の店ながら心配になってしまう。


身内だから言うワケじゃないけど、うちの店って、値段の割には量もたっぷりだし、シェフの腕は確かだし、デザートも前菜もきちんとしているし、なんといってもゴールデン・スマイルのワタクシが接客しているのである。かなりイイ線行ってる店だと思う。もう少し流行っても良さそうなもんだけどなあ。混み合う屋台で高くて不味くて不潔な焼きそば食べるより、もう5分も歩けば、ゆったり落ち着いておいしいイタリアンが食べられるのにさ。


「ねえねえ、やっぱりうちの店ってPR不足なんじゃないかなあ? この場所、静かで景色はいいんだけど、一見さんじゃまずわかんないところだからね」
と私。
「焦っても仕方ないっすよ、地道にコツコツやっていけばお客さんはついてくるから」
と27歳の若きシェフは言葉少な。
「そうだ、『駅前の喧噪から離れて、ゆったりとランチタイムを楽しみませんか? 緑豊かな公園をぶらぶら歩いていくとすぐそこに、すてきなレストランがあります。お散歩しながらお立ち寄りください。ランチ980円〜ご用意しております』ってさ、パソコンでキレイなチラシ作って、遊歩道のところで配ってみれば? どこもかしこも満員でランチを食べられない人は多いはずだから、場所さえわかっていればお客さんは流れてくるんじゃないかしら?」
「あ、それいいかも。夏休み中は東京からのお客さんも多いはずだから、店の名前を売り込むいい機会だよ。お金も大してかからないし。やってみようよ!」と同僚。


しかし、シェフは、小さく首を振って、
「そんなことしないでいいっすよ。うちはチンドン屋じゃないんだから......」
と呆れたように笑ったのだった。


な、なんだ? やたらかっちょいいではないか?


店のイメージを安売りしたくないという、彼のプライドである。よほど腕に自信がないとこんなセリフは出てこないだろう。まだ若いのにあっぱれな気概だ。エライ!


しかし......、背に腹は代えられないと思うぞ。地道にコツコツ積み上げていけばお客さんはついてくる――確かにそうかもしれないけどさ、活かすべきチャンスはきっちりモノにしたほうがいいと思うけどなあ。職人ってなかなか難しいもんだ。今月のお給料、遅れなきゃいいけど。