経験豊富な人々

友人知人と話しているときに「昔付き合っていた人がね......」という言葉が出ると、その都度、私は軽く凹んでしまう。他人のweb日記を読んでいるときにも「以前つきあっていた彼(彼女)は......」という箇所が出てくると、その度にガチョーンとなる。


ねえねえ、普通、一般ピーポーの方々って、どれくらい恋愛経験豊富でいらっしゃるんですか?
ちょっとした話題の節々に「昔付き合っていた人がね」とかるーくネタにできるほどの場数をこなしているのが普通なんですか? 世間の人々は、「昔付き合っていた人」の一人や二人、あるいは三人や四人、あるいはそれ以上いる、というのは大前提なんでしょうか? みなさん、それほどおモテになっていたんですか?


自慢ではないが、ワタクシ、「昔付き合っていた人がね」と話して聞かせられるような、「元カレ」の持ち合わせなど皆無である。独身の頃などは、寄るとさわると「今カレ」の話や「元カレ」の話ばっかりで、そのたびに私はどっぷり疎外感に浸っていたのだ。けれど、私にだって見栄があるから「そうそう、私が付き合っていた人もね〜」「いまちょっと付き合っている人もね〜」と必死に話に入っていったものだけど、それは、「彼」ではなくて、「ちょっといいなあ、と憧れていた人」「片想いだった人」レベルの話。あのカレはこんな人だった、あのカレはあんな人だった、とバリエーション豊かに話す友人達がどれほどうらやましかったことか。私よりも5つも6つも若い後輩があれこれと過去の恋バナを語っているのに、「いままで一人もカレがいなかった」と打ち明けると、周囲にドン引きされるような気すらした。


私はモテなかった。
自慢じゃないが、私は、ほんとーに、まっっっっっっったく、モテない女だった。
なんであんなにモテなかったんだろう、と今になってもつくづく不憫に思うくらい、モテなかった。


そりゃあ、美人じゃないし、スタイルもよくないし、おしゃれのセンスもない。「モテるタイプ」というのとは明らかに違うのは認める。だけど、見栄を張るわけではないけど、私は、世の多くの男性陣からアウトオブ眼中にされるほどひどい容姿をしているとは思えなかった。性格だってそう悪いとは思えなかった。友人の中には、同性と異性の前で明らかに態度の違う、同性からは毛嫌いされているけどオトコにはよくモテる、という子もいたけど、私は同性からは人気があった。「とこりと話していると時間を忘れる」とよく言われたし、頭の回転は悪くないから話せばけっこう面白いし、料理もそこそこ上手だし、根は単純で影響されやすいから、いくらでも好きな色に染められるし、私と付き合うといろいろ楽しいのにな、でも、どーしてこんなにモテないんだろう? てゆーか、どうして私以外の女の子ってあんなにモテるの???


若い頃の私は、毎日毎日ずーっと「モテない自分」を持てあましていて、それがとてもとてもコンプレックスだった。私ってどこかに欠陥があるのだろうか、と真剣に悩んでいた。けれど、人一倍プライドは高いから「モテない」ことが悩み、なんて口が裂けても言いたくなかった。「モテない女」であることを知られたくなかった。


今になって思うに、私がモテなかった一番の要因は、この自意識過剰にあったんだと思う。
「モテない私」「モテたい私」「どうしたらモテるの?」という思いで頭がいっぱいのクセして、自由にのびのびと恋愛している友人達を「チャラチャラしちゃってさ、サカリついちゃってさ」と心のどこかでバカにしていたところがあったのだ。


私の恋愛は、コンパで知り合ったり、ナンパで知り合ったり、フタマタだったり、ウワキだったり、そういう軽薄なものであってはならないのっ! 私の恋愛は、そんな浮ついたものじゃなくて、キチンとした環境で、誠実な気持ちで、知性と秩序をもって成されるものでなければならないのっ! そんじょそこらのパッパラパーな恋人達とは一線を画すものでなければならないののよっ! と、エラソーに思いこんでいたんである。私は「モテない」んじゃない、「ほんとうの良さ」がわかる人にまだ出会っていないだけ、「ほんとうの良さ」をわかってくれる人と出会えれば、それこそ、誰よりも充実した、優雅で美しい恋愛をしてみせる! と根拠なく思いこんでいた。
 
 
そんな私がいざ異性とコミュニケーションをとる段になると、そういういびつなプライドがジャマして見えないバリケードを築いていたんだと思う。


いつも物欲しげにきょろきょろ周囲を気にしているくせに、近寄ろうとすると全身自意識の固まり。「この人、私のことどう思っているのかしら?」ということばっかり考えていて、ちっとも「普通の会話」ができない。卑屈な視線の中にも相手を値踏みするような傲慢さがあって、そんな傲慢さを隠すために必要以上にはしゃいで、隙あらば甘えてやろう、その懐に飛び込んでやろうと、虎視眈々と狙っている......


若い頃の私って、多分そんな風に見えたんじゃないか。なにせ、缶ジュースおごってもらっただけで「この人、私に気があるのかも? でも彼氏としてはどうかしら? 75点くらいでギリギリセーフかな」って思ってたんだから。うへー、うぜーーーー!!


でも、私は未だに不思議である。じゃあ、どうすればよかったんだろう。あの頃、どんな風に振る舞っていたら、人並みな「レンアイケイケン」ができたんだろうか。まあ、私は極端な方だったのかもしれないけど、でも若い頃ってみんな多かれ少なかれ、そういう自意識を持て余しているもんじゃないの? あのときの私の、どこがいけなかったんだろう? どうして私には「とこり、好きだ!」と言ってくれる男性が「複数」現れなかっただろう? 


「複数」はいなかったけど、とにかく一人は「こいつとなら結婚してやってもいいか」と思ってくれる男性がいて、それが現在のオットなのであるが、多くは語らないが我がオットも相当の「モテない男」だったらしい。まさしく割れ鍋に綴じ蓋。モテない同士、末永く末永くいついつまでもしっかり連れ添っていく覚悟である。なにせ、スペアはないんだから。


というわけでヨワイ35にして、未だに恋愛のことがよくわかっていない私である。だから、私は他人の恋バナを聞くのがとても苦手。聞いててちっとも楽しくない。それどころか暗い青春時代を思い出して不機嫌になる。「自慢してるのか? あ゛あっ? どーせ私はモテない女ですよ!」とキレそうになる。おしゃべりはするのも聞くのも大好きだけど、恋バナだけは勘弁ね。