喧嘩上等!......になりたい

私は八方美人です。
日頃顔を合わせておつきあいしている人とはいつもニコニコ和やかに接していたいし、なるべくカドをたてたくない。相手の言動に納得いかなくてむかっ腹たつことがあっても、「しょっちゅう顔を合わせる人なんだし、今は腹立つけど、私がここで自己主張して関係がぎくしゃくするよりもテキトーに流して丸く収めておいたほうが後々ラク」と自分をなだめすかして我慢してしまうことが多いのです――なんて書くと、相手の非を許し、受け入れ、いつもニコニコしているマザー・テレサみたいなイイ人がイメージされるかもしれませんが、そうじゃないんです。ただ単に嫌われたくないだけなんです。たとえそれが私の大嫌いな人であっても、嫌われるのはイヤ。「私はほんとはあなたのことが嫌いなんだけど、あなたには私のこと好きでいて欲しい」という屈折した媚びを常に抱えているのです。他人の顔色が気になって気になってしょうがない。誰にでもいい顔していたい。どんなに腹の立つことがあっても、こんなヤツには嫌われたってかまわない、私のことどう思われたってかまわないもんね〜、あっかんべ! と開き直ることがどうしてもできないんだな、これが。


けれど、こんな風に四六時中他人の顔色ばかりうかがっている生活は、やっぱりストレスたまります。もともと私は人の好き嫌いが激しくて、嫉妬深いし執念深いし、お腹の中は真っ黒けなのです。テレビに出てくる芸能人の7割くらいは「こいつ大嫌い〜!あっち行けシッシッ」と思いながら見ているくらいだもん。でも、嫌いだ嫌いだ! と思っている相手でもいざ面と向かうと、「私が嫌いだって思っていることがバレたらどうしよう......」なんて考えてしまって、逆に異様に愛想よく振る舞ったりして、あとでぐったり疲れてしまうのです。くだらないことに無駄な神経使ってアホみたいです。


性格悪いくせに、小心者で八方美人。要するに人間の器が狭いんですね。


びくびくと他人の顔色を見ながら愛想笑いばかりしている私のような人間にとって、理解不能なのが「自分の不機嫌をストレートに他人にぶつけられる人」です。どうも私はこういう人と巡り合わせる機会が多いみたいなのです。こちらが親しげに話しかけても、木で鼻をくくったような返事しかしない、思いっきりめんどくさそうな態度、あからさまにシカトする、どう考えても八つ当たりだろうとしか思えないようなキツイ言葉で何か言う.、そうかと思うと、これまでの無愛想な態度が嘘みたいにけろっとしてニコニコ話しかけてきたりする......。みなさんの周囲にもこういう人、いませんか?


あからさまにネガティブな感情をぶつけられると、私のような小心者は「いったい私の何が悪かったんだろう、なんでこの人は私のことをこんなに強く憎んでいるんだろう、なんだか知らないけど、やっぱり私という人間にどこか欠陥があるんだわ、だからこんな仕打ちをされるんだわ、やっぱり私はダメな人間だ、嫌われ者なんだ、つまんない人間なんだ......」と延々と自己嫌悪に陥ってしまうのです。頭の中では「この人はこういう人なんだから、そもそもの態度が失礼な人なんだし、おそろしく気まぐれなだけで、こっちに非があるわけじゃないんだから。気にしない、気にしない」とわかっているんだけど、ビクビクなスモールハートは、相手の「不機嫌」という爆弾をぶつけられてガクガクブルブルです。「お願い、私にいけないところがあったら言ってください、直しますから。♪わるい〜時は〜どうぞぶってね〜 あなた好みの あなた好みの おんなに〜なりたい〜♪」と古い歌謡曲の一節を歌ってしまうほど、気分は負け犬。


それにしても不思議です。こういう「不機嫌オーラ」を勝手気ままに発射できる人って、不機嫌をあたりかまわずまき散らして、周囲がどんなにイヤーな気持ちになるのか考えないのだろうか。しょっちゅう顔を合わせる間柄なのに、いたずらに空気を硬直させることにためらいはないのだろうか。私は先述の通り超超小心者だから、他人に対して「不機嫌オーラ」を出すなんて考えられない。よっぽど不愉快なことがあっても押し殺して愛想笑いしています。唯一八つ当たりできるのはオットくらい。それでも、オットに対してくだらないことで八つ当たりしてきつい言葉を吐いてしまったときなんかたちどころに後悔して、ごめんごめんごめんごめん嫌いにならないでお願い、と足をぺろぺろなめてヘーコラしちゃうんだけど。


「不機嫌オーラ」を発射できる人って、気分的に「勝ち犬」なんだよな。自分がどんなに気まぐれに振る舞っていても相手の顔色が気にならない。相手を自分の空気に屈服させることに慣れている。場の雰囲気をかき乱してしまった自覚も反省もない。そういう人の周りって、「もうめんどくさいからテキトーにご機嫌取っておこう」的雰囲気で、その人に合わせるようになることを知っているんだよね。いやあ、ほんとにうらやましいです。これは皮肉ではなくて、マジでうらやましい。私もあんな風に言いたいこと言いたい。あからさまにカドを立てたい、不機嫌な顔してみたい。周囲にご機嫌とってもらいたいよ。三十路もなかばを過ぎてるというのに、いまだに相手のちょっとした表情の変化、言葉の端々を邪推して「嫌われたんじゃないかしら? 何がいけなかったのかしら?」とオロオロオロオロするのにはもううんざり。他人にどう思われてもかまわないわ、私は私、喧嘩上等、ひんしゅくカモーン! と大見得切れるスケールのでっかい人間になりたいです。最近、いろいろ疲れることが重なってしまって、ほんとうに痛切にそう思います。はああ〜疲れた......。