初めて見たよ

スーパーでの駐車場で、私と同い年くらいの母親と3歳くらいの少女の親子連れが立ち止まっていて、西の空を指さしてこんな会話をしていた。


「ほら、あそこのお空見てごらん。お空がいろんな色になっているでしょう。ピンク色とか青色とか緑とか。きれいでしょう?」
「どこ? どこの方?」
「あの茶色いビルのずーっと上の方。よーく見てごらん。きれいな色のお空でしょう」
「あ、ほんとだ」
「あれね、虹っていうんだよ。雨が降った後にお空がああいう色になるの」
「にじ?」
「そう、七色の虹」
「なないろの、にじ?」
「きれいでしょう?」
「きれいだねー!」


母子はにこにこ笑いながら、虹を指さしていつまでもおしゃべりしていた。
私も、その会話につられて西の空を見てみた。雨上がりの空に鮮やかな七色の虹が出ていた。虹を見るのはとても久しぶりだった。きれいだった。



これが春。これが夏。これが秋。これが冬。これが雨。これが風。これが空。これが海。そして、これが虹......。
今日「虹」という言葉を覚えたように、少女はこれからたくさんの美と出会っていく。


大人の私には空気のようにで当たり前で、なんの感動もない風景でも、幼い少女にはまだまだ「初めて」のことばかり。見るもの聞くものさわるものすべてが「これから」である。



私はこの母親がとてもうらやましかった。
少女が生まれて初めて見るこの美しい自然現象を「あれが虹っていうんだよ」と教えてあげることができる母親。少女の人生に確かな「美しさ」を追加することができる母親。


私が、この先、誰かにこんな風に「美しさ」を伝えることなんてあるんだろうか?