「お片づけ」のコスト

仕事の打ち合わせでよくファミレスを利用するオットから聞いた話ですが、最近のファミレスでは「後かたづけをしない」というのが大流行なんだそうです。


なんでも、あるファミレスチェーンが、ランチタイムの最繁忙時、先客が食べ散らかしたテーブルを「あえて」片づけず、後から来た客には「空いている席から順に詰めてもらう」という形式にしたところ、
「案内」「オーダー取り」「配膳」「後かたづけ」というホールスタッフの基本作業のうち
「案内」「後かたづけ」の部分が省略されたため、人件費の大幅な削減に成功したのだそうです。その事例が有名になり、いまや多くのファミレスチェーンで右へならえで、「ランチタイムはテーブルを片づけない」がメインストリームなりつつあるのだとか。


なるほどねえ。
私もフードサービスでのアルバイト経験が長いから、その理屈はわかります。
ランチタイムの一番忙しいときには、次から次へと訪れる客に対して
「ただいまお席をご用意しますので少々お待ちください」と言って、あわあわと先客のお皿や食べ残しを洗い場に運び
→テーブルを拭き→お冷・カトラリーを用意し、
→「お待たせ致しました。こちらへどうぞ」と案内
という基本手順をこなすだけでいっぱいいっぱいです。ちょっとでも気を抜くと、入り口に客が行列を作り、オーダーは滞ります。オーダー取りや料理を運ぶ合間にも、出しっぱなしになっている皿がないか、テーブルは汚れていないか、カトラリーはちゃんと出ているかと始終チェックしなければなりません。なんといっても「汚れたテーブルがいつまでもそのままになっている」なんてホールスタッフの恥。「ダメな店」決定です。だからどんなにショボい店でも、ランチタイムにはどの時間帯より多めの人員を配置して万全のスタッフ態勢で臨むのです。


そういう固定観念を取っ払って、「汚れたテーブルはとりあえずそのまま! ランチタイム終了後のヒマな時間帯にまとめてがーっと片づけ! 以上!」という方針にすれば、確かにホールの仕事は随分楽になります。スタッフの数はこれまでの半分ですむでしょう。座席数の多いファミレスなら、多少テーブルがふさがっていても空いている席はあるでしょうから、「ご順にお詰めください」方式で待ち時間もなく、効率よくお客さん入れることができるはず。そもそもランチタイムの客はそんなに長居しないしね。


「だからさ、ランチタイムが終わってすぐあたりの時間帯にファミレス行くと愕然とするよ。いたるところ汚れた皿と食べ残しだらけ。店員が片づけるそぶりがないもんだから、ふきん借りてきて自分で片づけたくなってくるもんね。」とオット。


「でもさ、客によっては『窓際の隅っこの席に座りたい』っていう希望があったりするわけでしょ?そういう場合は、さすがに片づけて案内してくれるんでしょ?」


「いや、『ただいまそちらのお席はご用意できておりませんので、空いているお席からどうぞ』って言われちゃうんだよ」


はあ......。
最近のファミレス業界はかなり厳しいらしいから、こういう秘策をとって削れるところからどんどん削っていかないと生き残っていけないんだろうなあ。サイゼリヤなんかお子様ランチが199円だったりするもん。バイトの時給が800円だったとしても料理単価がその四分の一なんだもんなあ。必死になるのもわかるわ。


でもさ、理屈はわかるけどさ、いくらコスト削減って言っても、そのやり方はあまりにも身も蓋もないっていうか、哀しくないですか?


どんなグーダラ主婦だって、家にお客さんが来るとなれば、散らかった雑誌は押入につっこみ、ダイニングテーブルに出しっぱなしになっているコーヒーカップやコップは慌てて洗って片づけて、ふきんでざっと拭いて、玄関の靴を並べて、とりあえず居住まいを正してから「いらっしゃいませ」って言うのにさ。


まがりなりにも客商売で「とにかく来てくれ! 散らかってるけど気にすんな!」って開き直っちゃってもいいの? そんなの、立ち食いそば以下のサービスじゃんねえ? 周りに汚れた皿や食べ残しが雑然と放置されたままのテーブルが目につくような店じゃなにを食べても美味しくないと思うんだけど、最近はそういうこと気にしない客が増えたのかしら? 多少汚くても安い方がいいのかなあ? ファミレスって親子連れの利用客が多いはずだし、教育的観点からも「汚れた皿はさっさと片づける」という姿勢を見せた方がいいと思うのだけど。


なんか、あまりにも世知辛いよ。こんなの、食事のベルトコンベヤーだよ......。どんなに忙しくても、安くても「レストラン」と名が付くからには「食事を楽しむ場所」なはずなんだけど。それでいいのか、のか、のか???? 


フードサービスに携わる人間として、あまりにも哀しくなってしまう話でした。