昭和なセンス

バイト先の同僚M子ちゃんは失恋したばかり。さらにタイミング悪く公私にわたって様々なトラブルが重なり、心身共にぐったり来ていた。そんな彼女を見かねて、親しい女友達が合コンをセッティングした。


男子グループは某企業の研究室におつとめのサラリーマン数名。女子グループは市内の某カフェレストラン・雑貨ショップで働くきれいどころ数名。いちおう女子の頭数はそろえてあるけど、あくまでも今回の合コンはブロークンハートなM子ちゃんメインなんだから、他の女子、ちょっと遠慮してよね! と、しつこく言い含めておいたという。昔の男を忘れるには新しい男を作るのが一番。しかも、つくばという土地柄か、このあたりには有名企業や一流大学の研究所が多く、いわゆるエリートと呼ばれる人々の割合が高い。今回集まる男子グループも名前を聞けば誰でも知っている一流企業におつとめなのだ。うまくいけばあこがれのマダーム生活よ! 人生変えちゃう合コンになるかもよ。張り切っていこう! いざいーかん、いーざー! レッツゴーゴーゴー! 


私たちは、いまひとつ乗り気じゃない彼女をさんざん煽って合コンに送り出したのだった。


合コン終了後、「どうだった?どうだった?」と感想を聞くと、
「うーーん、よくわかんない。あんまり話もできなかったし」とのこと。
聞けば、人数合わせのために招集されたエキストラの女の子の中にやたらアグレッシブな子が一人いて、前後左右を男子に囲まれるという特等席をがっちりキープしてしまい、メインであるはずのM子ちゃんは隅に追いやられてしまったのだとか。もともとそれほど乗り気でない上に、愛想のいい方ではない彼女は、場の雰囲気になじめないまま居心地悪く数時間を過ごしたのだとか。


そんな不甲斐ない報告を聞いて、合コンをセッティングした友達は歯ぎしりした。
「んもーーー! 合コンは最初の席取りが一番大事でしょ! なにぐずぐずしてるのよ。せっかくあなたメインで、って話を通してあるのに!」
「えー、だって、とくにピンと来た人もいなかったし......別にいいよ、もう」
「一回合コンしただけでピンと来るわけないじゃない。とりあえず出会いのきっかけを作るだけでしょ。あとは各自の努力で発展させるんだってば! で、メールアドレスはもちろん交換したんでしょうね?」
「アドレスはもらったよ」
「アドレス交換したんだったら、すぐ全員にメール送らなきゃだめだよ。全員にだよ!」


そうやってガミガミ言い聞かせたにもかかわらず、M子ちゃんは自分からアプローチすることはせず、向こうからメールを寄こしてきた人にのみ、形ばかりのお礼の返信をしただけだったそう。その後、何回かメールのやりとりはあったそうだけど、気のない彼女の対応が伝わったのか、いつしかメールも来なくなり、ブロークンハートな彼女の人生変えちゃうはずだった合コンはあえなく不発に終わったのだった。


一方、エキストラという立場でありながら「お姫様席」をキープし続けたアグレッシブな彼女は、その合コンがきっかけでしっかり彼氏をゲットしたのだとか。なんだよ〜、トンビに油揚げ持って行かれちゃったじゃないの〜!


その話を聞いた私は、M子ちゃんにこんこんと説教をした。
「合コンっていうのはね〜、アフターケアが一番大事なんだから。飲み会の興奮がさめないうちに間髪を入れず連絡することによって好感度がぐっとアップするんだからね」
「わかっているけどさ〜。アフターケアのメールってどうやって打てばいいのよ?」
「なんだっていいんだよ。ほんの挨拶程度で」
「じゃあさじゃあさ、とこりならなんてメール出すの?」


と聞き返されて、私はぐっと詰まってしまった。いままで訳知り顔に「合コンっていうのはね〜」などと上から目線でウンチクたれていたけど、実は若い頃から「合コン」などという華やかなイベントにはまったく縁がなかったのだ。若い頃の私は(今もだけど)徹底的にモテないっ子ちゃんだったから、「合コン」などに誘われることもほとんどなかったし、たまーに誘われても「合コンなんてくだらないわっ。居酒屋で恋が生まれるはずないじゃないの」と精一杯強がってあえて断っていたのだ。だから「合コンは最初の席取りが大事」だの「アフターケアは大事」などのウンチクはテレビや雑誌で聞きかじっただけの浅薄なシロモノ。実体験なんて皆無に等しいのだ。


でも、そんな寂しいシングルウーマンだった時代はもう遙か昔。今の私は曲がりなりにも既婚者だし、それなりに年もくってるし、人生の酸いも甘いも、オトコゴコロだって少しはわかっているつもりだもんね。アフターケアのメールくらお茶の子さいさいよ。


「そうね〜。私だったら、
sub:お疲れさまでした♪
昨夜はお疲れさまでした。久しぶりに大勢の人とおしゃべりできてとても楽しかったです(^.^)。私ってば、ちょっぴり緊張していたので、ちょっと飲み過ぎてしまいました。なにか失礼があったんじゃないかとドキドキしています......(^_^; 皆さん明るくて優しい方ばかりで安心しましたあ! またぜひ、ご一緒させてくださいね♪ またメールします〜♪
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ってな感じかな。」


と自信満々で言ったら、


「え〜、なんか、そのメールものすっごーーくやる気マンマンなんだけど」
「合コンの翌日にそんなの来たらひいちゃうなあ」
「『隙あらば感』、みなぎっているし!」
「カマトトぶっててうざいよ!」
「てゆうか、感覚が古い! 昭和!」
と、M子ちゃんを含め、友人たちの評価はさんざんだった。え?え? そうなの? 私としては奥ゆかしさとユーモアを兼ね備えているうえに、今後の可能性につなげて道をつけるという、かゆいところに手が届く万全のメールだと思ったんだけど......


いいよいいよ、もう!どうせ私、モテなかったし! 青春は昭和だったし! 異性とメールのやりとりするとか、合コンとか、そういう文化で育ってないし! 色恋にはあんまり免疫ないしね。


というわけで、私のアフターケアメールは「センスが昭和」なんだそうです。平成19年、イマドキのお年頃の善男善女にとって100点満点のアフターケアメールってどんな内容なのかしら?