裸足じゃなかったことは覚えている

私には一歳年下の従兄弟がいます。
横浜在住。ルックスはまあまあ、性格もさっぱりしているし、仕事も真面目で、そこそこお金も持っているらしいのにどういうワケか女性に縁がなく、未だ独身。結婚よりも気の合う友人たち(いずれも独身)と釣りや旅行をしている方が気楽でいいのか、結婚する気配がまるでないらしく、それが叔母にはじれったいらしい。


「誰かいい娘いないかしらね〜」という叔母のため息にピンと来た私。あ、そうだ、ちょうど彼にぴったりな友達がいるなあ。彼女も彼氏募集中だったし、ひょっとしたらいいご縁かも......。
というわけで、双方に「いいヒトいるのよ、会ってみない?」とプチお見合いをセッティングしました。従兄弟も友人も、それほどかしこまることもなく「そうだなあ、会うだけでもあってみるか!」という軽いノリでトントン拍子に日程が決まりました。


最近、こーゆー世話焼きオバハンみたいなまねをすることに無上の喜びを感じるようになった私。いやあ年だねえ。


そして当日。頑張っておしゃれした友人を連れて、横浜の某ショッピングモールで待ち合わせです。遠くから私たち二人を認めて、近づいてくる従兄弟。私の隣にたたずむ友人を見て、明らかに顔色が変わりました。


その日の友人は、袖と裾がふわっと広がる黒いワンピース姿。ものすごく暑い日で、同行した私は汗どろどろなのに華奢な彼女は一滴の汗もかかずいかにも涼しげ。地味な色遣いながらも黒目勝ちで華やかな顔つきなのでぱっと人目を惹きます。従兄弟にはあえて詳しい事前情報は提供していなかったのですが、私の友人の中でもトップクラスの美人なのです。


軽く世間話をしながらお昼を食べた後、3人で赤レンガ倉庫街を散策。彼女がトイレに立った隙に、従兄弟に「どう? きれいなコでしょ?」と聞くと、「ちょっと〜、ありゃヤバいでしょ。ありえないでしょ。あんなにきれいなヒトが来るんだったら事前に言ってくれよ。心の準備ができてないって。俺、心臓バクバクしてきたよ」とコーフン気味。


しばらくして今度は従兄弟が席を外した際に「どう? いい感じ?」と聞くと、「うん!すごく感じがいい人だよね! 全然アリだよ〜!」とこちらもかなりの好感触。おおっ、これはひょっとしたらひょっとするかもしれない??


その後、二人は首尾よく連絡先を交換しあい、早くも次回のデートの約束をした模様。お見合いオバハン・とこりのミッションは大成功です。


それから三日後、従兄弟から電話がかかってきました。
「あんなにインパクトのある出会いなんてそうないからさ〜、俺、その晩眠れなかったんだよね」
「ふーん、そんなに気に入っちゃったんだ」
「とにかくさ、最初に待ち合わせ場所でとこりの隣に立っている姿からして全然ちがうもんな。細くってさ、ふわーっとしててさ、全然汗かいてなくてさ」
「悪かったわね。私の隣に立てばたいていの女の子は相対効果でポイントアップするのよ」
「話もおもしろいし、すごく細かく気がつくし、なんかパーフェクトじゃね?」
「まあ、いいコだわよ。いまフリーなのが奇跡的なくらい」
「ほんと、とこりには感謝だよな。あんなにすてきなコを紹介してもらって......」
と電話口で話しながらも、彼女のことを思い浮かべて遠い目になっている従兄弟の姿か目に浮かぶようです。
「特に印象に残っているのがさ、2件目に行ったカフェで、彼女、俺の向かいの席に座ってたんだけど、そのとき、足首をリボンで結ぶタイプのサンダルを履いていたんだよ。ワンピースとおそろいの黒のサンダル。そしたら、そのサンダルのリボンが少しゆるんでいたんだよな。で、彼女、俺に見えないようにちょっと横を向いて、ささっと足首のリボンをむすび直したんだよ。あのときのさー、彼女が恥ずかしそうにリボンを直している様子がさー、もう、ほんっっっときれいでさー、あのシーンが忘れられないんだよなあ......」


んもう、うっとりモード全開です。おい、いま電話口でよだれ垂らしてるだろ。


私が紹介した友人であるとはいえ、自分以外の同性を手放しで絶賛されるとなんとなーく白けた気分になってしまうひねくれた私。そうかいそうかい、そんなに気に入ったかい。そりゃあよかったわね。そうよねえ、きれいなコだもんねえ。汗もかかないもんねえ、サンダルの紐直すくらいでこんなにうっとりされるんだもん、美人っていいわよね〜。


「ところで、あの日、私がどんな履き物はいてたか覚えてる?」
と聞くと
「え? とこりが履いてたもの? えーっと、ビーサンだったけ?」


おあいにく様。私だってその日は久々の横浜で張り切って一万円もするオレンジ色のウェッジソールのサンダルを履いていたんだよ。汗びっしょりになりながらもちゃーんとお化粧もしていったのにさ。仲介者の私のことなんてまさにアウトオブ眼中。ま、それでいいんだけどね。私もヘンに女力(オンナリョク)で張り合おうとせずに、世話焼きオバハンに徹することにします。なにはともあれ、このご縁、うまく行くといいなあ〜♪