ビューティー劣等生

私がいつも行く美容室のスタイリストさんはとても熱心な人で、「女子力ゼロ」の私に少しはしゃれっ気を持たせたいと「こうすればもっとかわいくなりますよ〜〜」とあれこれ工夫してくれます。それまでのベリーショートをのばすことをすすめてくれたのも彼女だし、眉毛のお手入れ法やメイクのコツも、「こういう髪型の時にはこういうデザインの服を着るといい」などのファッションアドバイスもしてくれます。おかげさまで、それまで野生児のようだった私も、彼女のアドバイスに従って少しは身だしなみに気を遣うようになりました。こないだのヘアカットの時におもいたって薄くメイクをして行ったら、
「とこりさん、普段の日でもお化粧するようになったんですね。うれしいです〜」と、出来の悪い子どもがかけ算を覚えてきたときのように喜んでくれました。職業柄、「きれいじゃないモノ」が目の前にあるとじれったくてしょうがないんでしょうね。植木屋さんがぼうぼうにのびた草木を目にして剪定せずにはいられない、みたいに。


彼女にすすめられて今髪を伸ばしている最中で、ちょうど肩に掛かるかかからないかという長さです。「ヘアワックスで毛先を遊ばせるようにふんわりまとめて、前髪は無造作に流すようにして......」とスタイリングのコツを教わったけど、そんな高級テクニック、不器用大魔王&めんどくさがり帝王の私にできるわきゃーない。それでも最初の頃は、見よう見まねでスタイリングのまねごとを試行錯誤していましたが、ここ数日の暑さで首の回りが蒸れて蒸れてしょうがない。あろうことか、いい年をして「あせも」までできてしまいました。天花粉はどこだ天花粉は!


それで、いまでは朝起きたら無造作にブラシをかけてヘアバンド(100均で買った)でオールバックにしちゃいます。暑くなると、ファンデが汗でじとーっと浮いてくる感じがイヤなので、せっかく買いそろえたコスメやメイク用具も、最近はすっかり封印したまま。一日中スッピンのオールバック。「私今から洗顔します」という状態のままです。暑さは私からすべての緊張感を奪うのです。


いいかげんパーマも落ちてきたし前髪も伸び放題になってきたので、そろそろカットに行かなければならないのですが、せっかく時間をかけて女子らしく手入れしてきたのに、ちょっと目を離したスキに、またもとの野生児に戻ってしまったのを見たら、スタイリストさんはがっかりするだろうなあと思うと、申し訳なくてのこのこお店に行けません。0点をとった答案を見せて母親に怒られるのが怖くて、暗くなるまでオモテで遊んでいるバカ息子の気分です。
ほんとは「ゆるふわセミロング」なんてめんどくさくて暑くてイヤなので、以前のようにショートに戻したいんだけど、「のびてきましたね〜、いい感じですよ〜」と喜んでいた彼女の顔を思い浮かべると、それも言い出せません。


私がきれいになって喜ぶのは、私よりもたぶんあのスタイリストさんです。彼女を喜ばせたいばかりに今まで頑張ってきたけど、このあたりが私の限界です。でも、これまでの彼女の苦労もムダにしたくないのよね。がっかりさせたくない。


今度、きちんとした洋服を買って、別の美容室できれいにセットしてもらって、ちゃんとメイクもして、それからあの美容室に行こうかなあ。根本的に何かが間違っているような気がする......