マンモスかなP アトピー史 (その2)

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さて、2年ほどその病院に通っているうちに、結婚が決まり、東京をひき払って茨城県の牛久という街に引っ越すことになりました。先生は「引っ越しても通ってらっしゃい。うちには九州から来てる患者さんもいるんですよ」と言われたので、結婚後しばらくは片道2時間かけて通っていましたが、そのうちに覚えはじめたインターネット検索で、隣町にも「脱ステロイド療法」のお医者さんがいる! という情報にたどり着き、そこに転院することにしました。なにせ、当時の私は「ステロイド=悪」だと思いこんでいて、アトピー完治のためには脱ステロイドしかない! と信じていたから。


で、通いはじめた隣町の皮膚科。そこのお医者さんもまた大変な繁盛でした。小さな個人医院でしたが、なんと第三駐車場まであり、どれも満車。しかし、診察は2分程度でおそろしく短く、回転が速いのであまり待たされることはありませんでした。ここでも、初診の時には「ステロイドの恐怖」と似たようなビデオを見せられ、延々とステロイド剤の害悪を説かれました。そして、保湿ローションがわりに「クレインウォーター」という水を塗れと言われました。クレインウォーターとは何ぞや。それはその医者の自宅に引いてある井戸の井戸水。先生の名前に「鶴」がついたので、その名を取ってクレイン(鶴)ウォーター。この水を高額な値段で売りつけていたら結構な悪徳医師ですが、このお水は無料でした。見せられたビデオでは、このお水をスプレーボトルに入れ、皮膚の乾いたところにこまめに吹き付けて根気強くステロイドを抜いて完治した患者の例がありましたので、私もさっそくペットボトルにお水を汲んで、せっせと患部に吹き付けていました。


でも、やはり、いっこうに症状はよくなりません。いや、湿疹自体は良くなる気配があったのかもしれないけれど、とにかく痒みがなくならない。結局のところ、アトピー治療とは痒みと戦う精神力の問題なのかしら? と思っていました。直らないのは私の意志が弱いせい。我慢が足りないせいなんだわ……。
アトピーになったのも私のせい、アトピーが治らないのもわたしのせい、私みたいな人間、一生がさがさな皮膚のまま、人前で手足を出せないままなんだわ……と、思考がどんどんネガティブになっていきます。


改善の兆しが見られないまま通院は続けていたのですが、ある時、海外旅行に出かけてばたばたしていたのをきっかけに病院の予約を取り損ねてしまいました。早く病院行かなきゃ、とは思っていたものの、ステロイドを使わず、毎日毎日かゆみと戦いながら気休め程度の保湿軟膏と「クレインウォーター」をふきかけるだけの治療に疑問をもち始めていた頃だったので、ものは試しにと、近所にあった別の医院に行ってみました。もう、なんでもいいやどうせ治んなないんだしと、捨て鉢になっていたのかもしれません。


そこの先生は「ステロイドはきちんと使えばいいお薬なんだから。そんなに真っ赤になってかゆいのに我慢するなんてつらいでしょう」と言って、微弱性のステロイド軟膏を出したのです。「うわ、この医者、ステロイドなんか出して! ヤブだヤブ!」「いままでのステロイド断ち、全部パー?」とひるみそうになったものの、少しだけ使ってみたのです。それが、長い間ステロイド経ちをしていたので吸収が良くなっていたのか、すごく効いたのです。湿疹で真っ赤だった肌にほんの少し潤いが戻って、赤みが引き、なによりも、一日中悩まされていたかゆみがなくなった!「かゆくない」それだけで、こんなにも心が晴れ晴れするものかと感じ入ってしまいました。


湿疹がひどくなる原因は「かきむしってひっかいてしまうから」なんだそうです。湿疹が自然治癒する以前に、かきむしってしまうことによってまた雑菌が入り込み、新たな湿疹ができる……の繰り返し、だから湿疹を抑えるには「掻かないこと」これにつきるんだそうです。「ステロイドはね、怖い薬じゃないの。きちんと使えばちゃんと効くんだから。まずはステロイドで湿疹を抑えてかゆみをとるのが大事。自然治癒とか生活改善とかは。ゆっくり、時間をかけて、一生かかるくらいの気構えで取りかからなくちゃ。でも、そんなに長い間かゆみを我慢するのは無理でしょう? かゆいの、いやでしょう?」


そうか、ステロイドは毒じゃないんだ。かゆいのは我慢しなくていいんだ。いままで「掻いちゃだめ」「ステロイド使っちゃだめ」「規則正しい生活しなきゃだめ」と「〜なきゃだめ」ばかり言われてきたので「我慢しなくていい」と言われたときにはずいぶんホッとしたものです。



つづく。......てか、思いがけず長大になってしまったわ。アトピー歴、長いもんなあ。