「多様性に気づく、多様性を築く」

先日、つくば市民大学で開催された「多様性に気づく、多様性を築く〜『いけばな』を通して〜」という講座に参加してきた。いやあ、これが実にね!よかったですよ! 講座が終わった後は道行く人すべてに握手して「ありがとう!みんな、ありがとう!」って言いたくなったくらい。



この講座は「多様性」をテーマにしているだけあって様々な立場の人が参加していた。目でものを見る「見常者(けんじょうしゃ)」、触ってものを見る「触常者(しょくじょうしゃ)」、車いすユーザーの方。職業も鍼灸師、フリーター、会社員、お花の生徒さん、語学コンサルタント、フォトグラファーと様々。普段の私の生活範囲ではまず知り合う機会のない人たちと出会える貴重な場である。


講師は私のお花のお師匠さんでもあるmiri先生。最初はいけばなの歴史についてのレクチャー。さらに草月流創始者勅使河原蒼風の「花はいけたら人になる」という言葉をひきながら、「花をいけるこころ」とはどういうことか、ということを先生自身の体験もふまえながらのお話。


次は実際に花をいける過程をみなさんにみてもらうデモンストレーションを3つ。
先生の不肖の弟子・ワタクシもデモンストレーションさせてもらった。見よ、この絢爛豪華な大作!......ではなくて、バラ一輪、ニューサイラン一葉の超ミニマルな作品。「一花一葉」、生け花の基本のキの形ですね。


もう一人のベテランの生徒さんのデモンストレーション。こちらはうってかわって見事な作品。白いガラス器と赤いワイルドキャットの対比がきれい。


やってみてわかったのだけど、デモンストレーションというのは観客にむかっていけていかなければならないので、自分は花器の後ろ側からいけていかなければならない。つまり自分で正面が確認できないということ。これは大変。私みたいな超簡単な作品ならまあ何とかなるけど、性質の違う様々な花材を取り混ぜて、高低・奥行き・広がりもった作品を後ろ側から形作っていくのは至難の技だ。豊富な経験とイマジネーションのなせる技ね。


こちらが先生の作品。観客にむけてあれこれレクチャーしながら、ものの10分足らずの時間でこんなに堂々とした作品ができあった。ただの「材料」だった花や枝が、先生の感性であっという間に見事な「作品」になっていく課程はまるで手品を見ているようで、仕上がりが近づくにつれて観客からは感嘆の声が挙がっていた。


さて、この場の「観客」の中には「触常者」の方がいる。彼らにこの作品の美しさはどう伝わるんだろう? どう伝えればいいんだろう? 私はずっとそのことを考えていて、先生がデモンストレーションをしている間、目を閉じてみた。


「これが夏ハゼ。こちら側から見た角度がとってもきれいですね。いかにも初夏らしいさわやかな緑です」「鮮やかな黄色のオンシジュームを前面にに豪華に使いましょう」「この変わった模様の花はワイルドキャットっていうんです。まだらの模様が猫に似ているから?」「この楓は枝振りがきれいなのでうーんとひろげてみましょうね」「かわいい形のギガンジュームをアクセントにして......」


先生の言葉の合間合間にパチンパチンと枝を切る音が聞こえる。目をつぶって聞くと、「枝を切る音」にも音があることに気づく。細くて柔らかい枝を切る音、太くて固い枝を切る音、力のいれ具合によって音の表情も様々だ。「ほら、このバラ、とってもいい香りでしょう」「こんなに大きく、両手をいっぱいに広げたよりも大きくいけられているんですよ」「ギガンジューム、触ってみてください。ネギ坊主みたいでしょう」と、香りをかいでもらったり、触ってもらったりして、視覚に頼らず、言葉や嗅覚、触覚で「いけばな」を表現しようすると、自分でもいままで気づいていなかった植物の特性や作品の構成が発見されてとても新鮮だった。

触って、香りを嗅いで、いけばなを感じてもらう。


最後はみんなで合作して大作を作るというワークショップ。先生が用意した花材を見ながら(さわりながら)、何をどのように使ってどういう構成の作品にするか話し合いながら、納得しながらみんなでいけていく。


先生が用意した器と花材はどれも超個性的で、「こ、これをいったいどうすれば???」と一瞬呆然としてしまったのだけど、一人一人が持っているイメージを確認し合い、話し合っていくうちに、自分の想像力の2倍3倍の広がりが出てきた。


できあがった作品がこちら。
どうです?とてもお花のシロートさんたちが作ったとは思えないでしょう?



「このままどっかのデパートのエントランスで飾れるよね〜」
「いまから売り込みに行こうか?」」あまりの完成度の高さにみんな自画自賛。予想を遙かに超えた素晴らしい作品になった。解体してしまうのが惜しかった。


「多様性に気づく、多様性を築く」。
講座のタイトル通り、人も、草花も、それぞれがもつ多様性に気づくことによって、新たな多様性をみんなで築きあげることができる。目だけではなく、手で触って、香りをかいで、草花の多様性に気づく。真正面だけではなく、後ろ側にも回ってみて、表現の多様性に気づく。一人で考えるのではなく、みんなで話し合って、それぞれが持つイメージの多様性に気づく。一人ではできないこと、気づかないことでも、たくさんの人とふれ合うことによって何倍もの想像力・創造力が生まれることを身を持って実感した、実に得難い経験だった。


「かかわりあう」って大事だな。


「多様性に気づく、多様性を築く」は連続講座です。
興味のある方はぜひこちらから。


※本文中の画像は一部miri先生からお借りしました。